次の日には早速練習に呼ばれた。

そもそも人前でベースを弾いたことすらなかった。
試しに少しやってみてよと言い、俺の演奏を聞いた水野は歯を見せて笑う。

「矢田上手いな!」

「どうかな」

そうは言われてもステージに立つのだから、自分だけ良ければ良かったこれまでのテキトーな演奏で良いはずがない。
バンドで合わせてもなかなかリズムに乗れていない気がするのが現実だった。

俺が水野に個人練習を頼んだのはそれが理由だ。
そして練習相手に水野を選んだのは、バンドのリーダー的役割を担っていたからで、他意はない。
こう書くとありそうだが本当になかった。
ボーカルとドラムは理系クラスで練習でしか顔を合わせないが、水野は唯一同じクラスだったし、
もともと持っていた社交的な印象によりきっと断られないだろうと思えたからだったからだ。

「水野、今日の放課後時間ある?」

水野は一瞬目を丸くしたあと、笑顔で頷いた。
真面目だねって笑いながら、水野はその後何度も俺の練習によく付き合ってくれた。

「俺もここ苦手なんだ、ちょっとやらせて」

水野の指差した部分を弾こうと弦の上に置かれた自分の指先を確認する。 

「たん、たん、たーん、たん。繰り返してて」

俺の刻むリズムに合わせて水野のギターが重なる。

「いいねぇ!」

水野は興奮した様子で、体ごと音楽に乗せていく。

どんな言葉も、音がピッタリ合わさったときにやっと会話になる。
その瞬間にやっと水野の言葉が伝わる。繋がる。