ありがとう。
照れくさそうに水野がそう言う。

見たことのない表情に戸惑った。

「そんなわけないだろ」

「あの頃、自分の理想を無理矢理押し付けてた。
でも間違ってた。
普段からちゃんとコミュニケーションとって、
何を表現したいのかきちんと言語化して
それで初めて理想の音楽ができる。
矢田との音楽が上手くいってたのはそれがあったからで、
矢田はいつもそうしろって教えてくれてた。
俺は言う事聞かなかったけどさ」

確かに、当時の水野は音楽の用語も何も知らなくて、
いつもジェスチャーや擬音で出してほしい音を求めてきた。

俺だって音楽について詳しくはなかったけど、
なんとか勉強して、それを水野に伝え意思疎通を図った。

水野が何を言いたいのか理解したかったからだ。
水野が俺を信頼してくれるように。

「ライブ行ったよ。かっこよかった」

俺の言葉に、水野は驚いた様子で笑う。

「いつも矢田が見てるかもと思うと背筋が伸びた。
矢田が来てても恥ずかしくないようにって。
でも本当に見てるとは思わなかった」

「曲も聴いてたし、いつも見てた」

「そうなんだ。じゃあよかった」