「酒、飲まないんだな」

「30歳くらいのとき依存症になって。医者に止められてる」

あのアパートの一室で浴びるように安い酒を飲んでいた。
今では考えられないくらい狭い部屋に二人でいた。

もう忘れてしまったことも、解決したことも多いから、夢のようなあの日々には戻れない。
過ぎた時間を一気に突きつけられた。

そんな俺の表情を読み取ったのか、また水野が話し始めた。

「俺が、酔っ払って電話かけた日のこと、覚えてるか?」

「覚えてる」

「良い詞も曲もかけなくて、納得いかないものばかり量産して
あの頃は心も体も限界だった」

ぽつりぽつりと水野の口から語られる言葉は、俺が見てきた輝かしい成績を持つバンドマンのものとは思えなかった。
というより、全く違った。

会わないうちに、勝手に、水野の本質を決めつけていたのだ。