「おお!天下のハリーアップ!」

乾杯を終え、早くも酒に酔っている様子の部長が隣で叫ぶ。
その声に呼応するように全員が拍手で出迎えた。

現れたのは水野(みずの)だった。

「何飲む?生?」

来て早々メニューを見せられ戸惑っている様子が伺えた。

「あー、烏龍茶で」

一番奥の席に座った俺の対角線上に陣取った男は、
Hurry Upというバンドでギターを担当している水野だ。
日本にいれば必ず聞いたことがあるそのバンドの曲を作っているのもまさしく彼で、
俺たち軽音楽部の出世頭というと逆に過言なくらいだ。

普段こういう集まりに顔を出すタイプではないのに、今日は一体なぜ来たのか。

大学時代と全く変わっていないように見える黒髪の緩やかなパーマ、
周りと同じように歳を食ったくせに色白で細身でシュッとしている。
洒落たグレーのセットアップは若作りしすぎていないし、
それに加えて業界随一の音楽センスを持ち合わせるのだから、人気があって当然だ。

横目に見ていたつもりがいつの間にかじっと見つめてしまっていたらしい。
視線に気づいた水野と目が合う。

予想外の再会と水野の微笑みに、俺は情けなく微笑み返した。