◇
それからまた数年経って、職場の後輩に誘われライブに初めて行った。
仕事も忙しかったし、舞台上にいる水野を下から見たらどんな気持ちになるのか
想像もつかなくて行けなかった。
これまでいくら言われても足が向かなかったのに、なぜだろう。
今回の人事で念願の管理職に昇進したからか。
流石に古びたベース処分したからか。
俺ではないベーシストと目を合わせる水野を観客席から眺める。
ステージライトが神々しく輝く。
でもそれが似合わないほど、演奏は泥臭く熟練されている。
何もかもが抜群。
これが水野のやりたい音楽だと思った。安心できた。
その日、水野はライブの最後に、客席に向かってこう叫んだ。
「ありがとう!」
水野の嫌いだった言葉だ。
毛嫌いしていたその言葉を使うようになるまでに、
一体何があったのか、どんな経験をしてきたのか。
俺は知ることができない。
水野のありがとうに、ありがとうと叫び返す隣の客。
お前にはこの重みが分かるのか。この野郎。
それからまた数年経って、職場の後輩に誘われライブに初めて行った。
仕事も忙しかったし、舞台上にいる水野を下から見たらどんな気持ちになるのか
想像もつかなくて行けなかった。
これまでいくら言われても足が向かなかったのに、なぜだろう。
今回の人事で念願の管理職に昇進したからか。
流石に古びたベース処分したからか。
俺ではないベーシストと目を合わせる水野を観客席から眺める。
ステージライトが神々しく輝く。
でもそれが似合わないほど、演奏は泥臭く熟練されている。
何もかもが抜群。
これが水野のやりたい音楽だと思った。安心できた。
その日、水野はライブの最後に、客席に向かってこう叫んだ。
「ありがとう!」
水野の嫌いだった言葉だ。
毛嫌いしていたその言葉を使うようになるまでに、
一体何があったのか、どんな経験をしてきたのか。
俺は知ることができない。
水野のありがとうに、ありがとうと叫び返す隣の客。
お前にはこの重みが分かるのか。この野郎。