水野が大学を辞めてから、俺たちの接点は一つもなかった。

俺はテレビや雑誌なんかでも水野の活躍を知れたが、
水野はもちろん俺の今を知れないし忘れていたって仕方ないと思っていた。

思っていたのに、あれは30歳になったばかりのときだった。
突然電話がかかってきたのだ。

あの頃にはなかったスマートフォンの大きなディスプレイに映し出される、名前。
電話帳を引き継いだとき、消してしまおうか迷った名前。

もうかかってくることなんてない。

そう思っていたから残していたのに。

『…』

電話の向こうの水野は酔っ払っているのか、何を言っているのか聞き取れない。

何度か声をかけたけど、結局切れてしまった。

ベースだってそうだ。

未練がない。
そう思うために残すのだ。

選んでしまったからにはこの道を正解にするしかない。