仕事は至極順調で、毎日が充実していた。

それでも休日、人々が行き交う街を歩いていると、ふと誰からも知られていない自分が怖くなった。

誰か俺を見てくれ。
俺が水野とバンドを組んでいた。
水野の隣にいた。
大きな声で叫んでしまえそうな衝動が時々現れてはしぼんでいった。

もしあのとき、俺のプライドがもう少しでも低ければ。
あのとき、水野についていきたいと言っていれば、こんな惨めな想いは味わわずに済んだかもしれない。

いや、きっとそんなの水野の実力に追いつけなくて、愛想尽かされて終わりだ。俺のベースはそんなに上手くなかった。
捨てられる。批判される。それを回避しただけ良かったじゃないか。

でも、あの時からベースに絞った人生を選んでいたら、今頃。

有り得もしない妄想も、俺の頭の中では現実だ。
面倒くさくなってそれを睡眠の外に投げ捨てるまでは、俺は水野の隣でプロのベーシストになれる。