そんなある日参加したコンテストで、背広姿の若い男性が名刺を持って声をかけてきた。
業界のことなんてほとんど知らない俺たちにも一目でわかるほど有名な事務所の名前が書かれている。

「作詞と作曲は君がやってるの」

いわゆるスカウトだった。

作曲家として、あるいはバンドがやりたいなら、
水野が専門としていないボーカルだって事務所で一流の人を用意する。


話を聞いて、心の何処かで安心していた。

これでもう嫌いにならなくて済む。
嫌われなくて済む。