1時間後も2時間後も水野はその飲み会の中心にいた。

俺は少し離れたところからそれを見ていた。
俺の隣に座る先輩も同じように見ていた。

「水野はノリが良いから良いよなあ。
そのくせ、乾杯のときは下からちゃんとグラス当てるんだ。後輩として可愛いよ」

先輩が軽く言う。
それはなんてことない一言だった。

あまり話さない俺に気を遣って提供してくれた話題かもしれない。
それなのに俺は理解ができなかった。

「そんな小さいところが気になりますか」

良いとか悪いとか、そんなところで判断されてしまうのか。

「まあ、細かい部分まで気を配って悪いことはないだろう。
そうしておけば一応角は立たないし」

先輩は特に怒る様子も引っかかる様子もなくそう言った。


長い時間かけて作った音楽でもなく、そんな小さなところで。

からかうと反応が面白いとか、相談すると真面目な顔で言葉豊かに返答をくれるとか。
俺は水野のそういうところを素晴らしいと思う。

目上の人と乾杯する時は下からいくなんて、そんな部分に人の本質は隠れていないだろ。
俺たちの本質は外から見える部分にはない。

長い人生のほんの数秒で、何か理解した気になられてたまるか。