初めてオリジナル曲を披露する日は腹の底から緊張した。

客席にいる誰もがまだ知らない曲をこれから演奏するのだ。

失敗するかもしれないという、ライブ前にいつも感じている不安は不思議となかった。

水野の作った音楽を一音一音的確に観客へ届ける。
この曲が完成するまで、あーでもないこーでもないと何度も意見を言い合った。
そして今日までに満足いく出来になった。

なのに、やっと完成した、と舞台上で初めて思えた。
水野のこれまでにない表情が見られたからだ。
目が合ったときの楽しそうな、嬉しそうな、汗だくの笑顔。そしてはまる音。

曲の後半になると客席にも目が行った。
いつものように拳を突き上げ盛り上げてくれる人たちの中に、
噛み締めるように頷きながら聞く人の姿も目立つ。
一人一人の顔なんて思い出せやしないけど、俺の身体が忘れられない。

彼らは記念すべき初披露を全部受け取ろうとしてくれている。
ライブ前の極度の緊張はこのためにあったんだ。

これを持って完成と呼ぶ。良い音楽と呼ぶ。そう思った。




発表会でも学祭でも、水野の曲は絶賛を受けた。

ギターも歌もこなし、作詞作曲までやっているというカリスマ性に、客席は全員水野を見てたけど、
このバンドは俺が低音で支えているという自負もあった。

水野とやるバンド活動がとにかく楽しかった。