3年生になって、水野とはまた同じクラスになった。

相変わらず休み時間の過ごし方は対照的だった。
それでも放課後は一緒だし、教室でも何かと話しかけやすいのは水野に変わりなかったので、
客観的に見ると異文化交流でもしているように見えたかもしれない。

「水野、頭のその、ヘアピン貸して。前髪が邪魔で」

本を読みながら、ちらちら目に入って鬱陶しかった。
教室の後ろの方で友人らと駄弁る水野を呼ぶ。

「これ?いいけど…。それなら」

水野はポケットから細い髪ゴムを取り出し、俺のそばに来て伸びすぎた前髪に触れた。
そしてそれを結んで、ピンで止める。

「なんでこんな面倒くさいことするの?」

水野が髪を編み込む理由がふと気になった。
俺なら絶対に進んでやらないから。

「可愛いじゃん。それと息抜き」

「ふーん」

「はい。矢田可愛い〜」

「ありがと」

「何してたの?」

達成感に満ちた様子の水野がふと俺の手元を覗き込む。

「本読んでた」

「面白い?」

「これはまあまあ」

「水野〜」

教室の後方でさっきまで水野といたクラスメイトたちの声がする。

「呼ばれてるぞ」

「うーん。じゃあね」

手を振って見送った後、明るくなった視界で再び本に視線を落とした。
後ろからまた水野の声がして振り返る。

「あ、矢田!今年も文化祭一緒に出るよな」

「うん、そうだな」

「よし!有志の申し込み始まってたから、名前書いとくわー」

水野の嬉しそうな笑顔と立てた親指が嬉しくてニヤけた。

いつになく丸見えの額から、すべての感情がバレそうで恥ずかしくて、
隠すように俯いて本の世界に入りこんだ。

「矢田くんと水野くん、タイプ違うのに仲良いんだね」

隣の席に座る女子に話しかけられる。

こんなふうに言われることも少なくなかった。

本来自分がいるべきではない場所、別の誰かがいるべき場所にいる感覚がした。
自分のではない道に迷い込んでしまったような。

それでもそれだけではなくて、
二人が音楽で繋がっていることが確かな芯になり、俺は立っていられた。