「はい、やる」

次の日の朝、水野が俺の席まで来て、紙袋を渡す。

なんだろう。
文庫本が入っていることは見た目でわかる。

中を覗くと、昨日俺が汚してしまった本と同じものだった。

「いいよ、やる」

「ああ、え?」

俺は頷きながら戸惑っていた。
俺を戸惑わせたまま水野は去る。

明らかに本屋で買ったばかりの新品だ。
別に水野に汚されたわけでもない。
誰が悪いわけでもなく、俺が俺の本を汚しただけなのに、なぜこんなことをするのかわからなかった。

優しさなのか、慈善活動かなにかか。
水野はたまにこういう不可思議な行動をとる。
俺にしかわからない、優しい行動。

こいつは人とはちょっと違う。
独特で面白くて、きっと器用ではない。
そこに惹かれた。

そして水野のそれは、俺の安心を満たし不安を取り除くような行動だった。