◇
たぶん暑い夏の日の昼休みだった。
俺は教室で突然鼻血を出した。
何の前触れもなく目の前を汚した鮮烈な赤に驚いて椅子を鳴らしたら、
近くの席の女子が「あっ」と叫んだ。
教室中の目線が俺に向くのがわかった。
その中には水野もいた。
俺は読んでいた本を血を挟んだまま閉じて、鼻を押さえながら便所へ向かった。
無防備に鼻から血を垂らす自分が情けなくて小走りになった。
しばらくハンカチで鼻を押さえていたら血は止まった。
戻っても、そこはいつも通りの教室だ。
「大丈夫か、矢田」
扉側の席に座る学級委員長が、眼鏡をくいと押し上げて尋ねてくる以外、何も変わらない。
まだジンジンする鼻、ポケットの中の汚れたハンカチ。
誰も俺を見ていない安心と、誰にも気づかれないもどかしさが半々だった。
たぶん暑い夏の日の昼休みだった。
俺は教室で突然鼻血を出した。
何の前触れもなく目の前を汚した鮮烈な赤に驚いて椅子を鳴らしたら、
近くの席の女子が「あっ」と叫んだ。
教室中の目線が俺に向くのがわかった。
その中には水野もいた。
俺は読んでいた本を血を挟んだまま閉じて、鼻を押さえながら便所へ向かった。
無防備に鼻から血を垂らす自分が情けなくて小走りになった。
しばらくハンカチで鼻を押さえていたら血は止まった。
戻っても、そこはいつも通りの教室だ。
「大丈夫か、矢田」
扉側の席に座る学級委員長が、眼鏡をくいと押し上げて尋ねてくる以外、何も変わらない。
まだジンジンする鼻、ポケットの中の汚れたハンカチ。
誰も俺を見ていない安心と、誰にも気づかれないもどかしさが半々だった。