こうして結婚式を終え、その後の披露宴を乗り切った頃には、二人は疲れきっていた。
そしてこの都市に一つしか無い宿の、二つベッドがある以前も宿泊した部屋で、マリアローズは右側、ハロルドは左側に飛び込んだ。ぐったりした二人はお互い虚ろな瞳を向け合う。初夜どころの話ではない。他の招待客は、近隣の都市に手配した高級な宿泊施設に滞在するのだが、二人は最後まで見送りに立った関係で、この宿を選ぶこととなった。

「思えば、私はここで、貴方が男の人だと初めて思ったのよ」

 疲れ切った声でマリアローズが述べると、ハロルドが苦笑した。

「お前に危機感がなさすぎて、俺がどれだけ我慢したか分かってるのか? 一睡も出来なかったんだぞ」
「そういえば眠そうだったわね」

 今となっては懐かしい。そんな事を思いながらマリアローズは睡魔に飲まれた。それを見ていたハロルドは、小さく笑う。

「いい悪戯を思いついた」

 そう述べて、ハロルドはマリアローズの隣に寝転がる。そして寝入っているマリアローズを抱き寄せた。腕枕をし、マリアローズの体温を感じていると、すぐにハロルドも眠気に襲われ意識を手放すように深い眠りについたのだった。

 ――翌朝目を覚ましたマリアローズは、最初、自分が何か温かいものの上に寝ていることを不思議に思った。無性に心地良いその温度に、掌で触れればちょっと硬かった。なんだこれはと薄らと瞼を開け、二度瞬きをする。

「え!?」

 マリアローズは、自分がハロルドの胸板に触れている事に気がついた。そして腕枕をされ、抱き寄せられていることも理解した。瞬時に真っ赤になった彼女は、それからまだ寝入っている白雪王の顔を見る。瞼を閉じているから、睫毛が長いとよく分かる。

 思わず魅入り、幸せだなと考えれば、頬が自然と持ち上がる。

 そのまま目を伏せ、マリアローズは人生二度目となる、自分からのキスを行った。前回は泣きながら願うようなキスだったけれど、今はただただ幸福感に包まれている。そう考えながら目を開けると、サファイアのような瞳が真っ直ぐに己を捉えていたものだから、目を見開いた。

「お、起きていたの!?」
「ああ。マリアローズの寝顔が見ていた。俺は鍛錬の時間には、いつも自然と起床するんだ」
「え、なっ、起こしてくれればいいじゃない!!」

 気恥ずかしくなって、おろおろと瞳を動かしながら大きな声でマリアローズが抗議すると、ハロルドが喉で笑った。

「まさか寝込みを襲われるとは思わなかった」
「っ」
「今度は起きている時に頼むぞ。俺を大切にしてくれるんだろう?」

 ハロルドの声に、赤面したままで、小さくマリアローズは頷いたのだった。

 こうしてハッピーエンドを迎え――……