ハロルドとマリアローズが、二人で王宮の庭園に向かったのは、その日の午後のことだった。結局手伝ったマリアローズのおかげもあり、ハロルドの仕事も無事に早く片付いた。そこで二人は、夜の晩餐までの時間、ゆっくりと外の空気を吸うことにした。
だいぶ日が長くなってきた。空は夕焼けで綺麗に染まっている。
青と橙色が混じり合い、雲の色を塗っているような景色だ。
手を繋いで歩いていると、きゅっと優しくハロルドが、マリアローズの手を握った。
握り返したマリアローズは、茂みで顔を出している白い花を見る。
これは冬と春の間に咲く、ミファリ花だ。
「可愛い」
小さな白い花弁に優しい眼差しを落としたマリアローズを、隣からハロルドが一瞥する。
「来年これを見る頃には、俺達は夫婦だな」
「ええ、そうね。毎年一緒に春を迎えたい」
「ああ。一緒じゃなければ許さない」
そう答えたハロルドが、マリアローズの腕を引く。そして右腕で抱き寄せると、左手でマリアローズの頬に触れた。少し屈んでハロルドが、マリアローズの瞳を覗き込む。
「ずっとそばにいてくれ」
「……最近のハロルドは、本当に甘くて甘くて困ります。私、照れすぎて頬の熱で溶けてしまいます」
「溶けられては困る」
苦笑したハロルドが、今度は両腕でマリアローズを抱きしめた。おずおずとマリアローズもまた、ハロルドの背に腕を回す。暫しそうして、夕焼けの下、二人で抱き合っていた。
その後二人で、王宮へと戻り、ダイニングへと向かった。
対面する席に座ったマリアローズとハロルドのそれぞれのグラスに、控えていた給仕の者がワインを注ぐ。晩餐が始まり、マリアローズはナイフとフォークを手にし、鴨肉をゆっくりと味わった。既に慣れ親しんだこの国の宮廷料理は、いずれも美味だ。
デザートはクリームチーズのケーキで、これがまた美味だった。ベリーのソースがかかっていた。マリアローズの好物の一つである。
食後湯浴みをしてから、二人の寝室へと向かい、マリアローズはハロルドがまだ訪れていないので、先に横になった。天井を眺めながら、先程庭で抱き合ったことを思い出すと、なんだか無性に照れくさくなり、一人で頬を染め、両手で顔を覆う。今の日々は、ベリーのソースよりも甘酸っぱい気がした。
「どうかしたのか?」
「わっ」
そこに急にハロルドが入ってきたものだから、思わずマリアローズは飛び起きた。そして騒ぐ鼓動を押さえながら、作り笑いを浮かべて首を振る。
「なんでもないわ」
「そうか」
まだ入浴を終えたばかりの様子のハロルドの髪は、少しだけ濡れて見えた。
冬だがこの室内は、魔石で温度管理がなされているので、風邪を引くことは無さそうだ。