アーシャは、僕から少し離れた場所に屈むと、僕と同じように、ガジガジとAsh(アッシュ)を削り始めた。どうやら、この場を離れた時に、自身でも作業ができるように新たに道具を持ってきたようだった。

「ごめんなさい。僕が道具を使っているから、アーシャは、仕事が出来なかったんだね」

 申し訳なく思い、項垂れていると、アーシャのぶっきらぼうな声が飛んで来る。

「そんな事気にしてねぇで、さっさと手を動かせ。お前はイレギュラーだから、作業が遅いんだ」

 アーシャの手元を見れば、確かに、物凄い勢いでAshが削り出されていた。

「……はい」

 それからしばらくは、互いに無言のまま、Ashを削り出すことに専念した。

 僕が籠の5分の1程をAshで埋めた頃には、アーシャは、籠にいっぱいのAshを削り終えて、籠のそばで休んでいた。

「今回はこれくらいでいい」

 アーシャの言葉で、ようやく僕は、固い地面を削る事から解放された。思わず大きなため息が漏れる。

 そんな僕を呆れたように見てから、アーシャは、Ashの大量に入った籠を背負うと、僕にもそうする様に促してきた。

「疲れているかも知れんが、次の作業に行くぞ。それを背負ってついて来い」

 アーシャほどでは無いが、僕の籠にもそれなりにAsh(アッシュ)が入っているのに、籠を背負ってみると、不思議と重さは感じなかった。

 僕の支度が済んだのを確認して、歩き出したアーシャの後を、僕はまたついて行く。

 道中、時々僕が質問することに、アーシャは面倒臭そうに、しかし、それなりにきちんと答えてくれた。

 この世界には、僕たちのようなAsh clock(アッシュ・クロック)を作る使命を与えられた者が他にもいる事。

 僕たちはここで数えきれないほどのAsh clockを作らねばならない事。

 仕事は基本的に一人で行うが、跡継ぎ候補が送られてきた時は、しっかりと跡継ぎを育てなければならない事。

 そんな事を聞いているうちにたどり着いたのは、大きな窯の前だった。窯の扉の間から、チラチラと明かりが見える。火がくべられているのだろう。

「ここで、Ash clockを作る」

 そう言いながら、アーシャが背負っていた籠を下ろしたので、僕もそれに倣った。

「この溶鉱炉でAshを溶かして入れ物を作る。入れ物が出来たら、残りのAshを入れてAsh clockは完成する」

 僕は、理解したと示すように1つ頷いてみせた。

「新たに作られたAsh clockは、大きさによって、どんな時を刻むものになるかが決まる」