アーシャは、作業の手を止めてしまった僕の目を覗き込むようにして、僕の視線を捉えると、二ッと笑ってみせた。

「この世界は、終着の場所であって、始まりの世界でもある」
「終わりと始まりの世界?」

 僕は、アーシャの笑顔から目を離さずにポツリと言葉を口にする。その小さな声に、アーシャは力強く頷いた。

「そうだ。人も動物も、虫も植物も物でも、万物は、皆終わりを迎えたら、この世界へとやってくる。Ash(アッシュ)は、万物の最後の形とでも言うのかな。万物はAshとなり、長い時間をかけて浄化されることで、再び新たな時間を刻むことができるようになるんだ」
「じゃあ、Ash clock(アッシュ・クロック)というのは……」
「浄化したAshの入れ物さ。新たに作られたAsh clockによって、新たな何かの時間が流れ出す。そして、最後の時を刻み終えたら、また、さらさらのAshとなって、この世界へ降り積る。そして、浄化され、新たなAsh clockが作られ、また、時を刻み始める。それの繰り返し。それが、この世界だ」

 アーシャの言葉を聞いて、僕はサンドパウダーの世界を見回す。遠くの方でさらさらキラキラと、空からAshが降っているのが見えた。何もない場所。万物の終着点。ただ、サンドパウダーがたくさんある場所。

 僕は目を閉じて、Ash(アッシュ)が降り積る音を思い浮かべる。遠くの方で降る、Ashのさらさらキラキラという涼しい音が、聞こえた気がして、気持ちが落ち着いていく。寂しさなんて少しも感じない。全てのAshが、新しい時を心待ちにしているような気がした。

「なんとなく、わかりました」

 僕は、アーシャの目を見て、しっかりと頷くと、止めていた作業の手を再び動かし始めた。次第に作業に没頭し始めた僕の行動に満足したのか、アーシャは、しばらく離れると言って、どこかへ姿を消した。

 アーシャが戻ってきた頃には、籠の底にうっすらとAshが降り積っていると言っても良いほどには、浄化され、冷たくなったAshを削り出していた。

 しかし、籠の中を覗いたアーシャは、ひどくがっかりとしたように肩を落とした。

「やっぱり、イレギュラーだからか……」

 ボソリとつぶやいた声が聞こえてきたが、僕は、聞こえないふりをして、ガジガジと熊手を動かし続けた。その間に、アーシャは、気を取り直すかのように鼻から息を吐き出すと、軽快に口を開いた。

「お前の処理漏れは、今、報告してきたからな。これで、思う存分仕事ができるぞ」