「あ、あの、アーシャ……さん?……何をしているの?」

 僕の問いにアーシャは、背負っていた籠を降ろすと、熊手を僕に渡してきた。

「オレのことは、アーシャでいい。本来なら、この世界へ来る前に、仕事道具は自分で揃えてくるもんなんだが、……まぁ、お前は仕方ない。しばらくは、俺のを貸してやる」
「えっと……ありがとうございます」

 僕は、一応ペコリと頭を下げると、アーシャから熊手を受け取った。しかし、どうすれば良いのか分からない。熊手の柄を握りしめ、僕は、首を傾げた。

「あの、それで、これで何をすれば……」
「俺たちの仕事は、Ash clock(アッシュ・クロック)を作ることだ。今回は、ここの砂を集める」
「Ash clockって? さっきも、ここはAsh clockを作る場所だって言っていたけど……」
「質問には答えてやる。だが、まずは手を動かせ。その熊手で、ここの砂を掻き集めろ」

 アーシャは籠のそばに腰を下ろした。仕方がないので、僕は、アーシャに言われた通り、熊手を握り、屈んで砂を集め始める。しかし、砂はとても固い。ガジガジと熊手を動かす。力を入れても、削り取れる砂は、ほんの少しだ。

「結構、固いだろ?」
「……っはい」

 僕は、手に力を入れながら小さく頷く。

「ここの砂は、Ash(アッシュ)と呼ばれている。俺たちは、このAshを使って、時計を作るのが仕事なんだ」
「それが、Ash clock(アッシュ・クロック)?」
「そうだ」
「砂なら、さらさらの取りやすいものが、歩いてきた道に、いくらでもあったのに。なにも、こんな固いところを削らなくても……」

 僕は、砂の硬さに早くも根を上げそうだった。そんな僕を、アーシャは仕方のない奴だとでも言いたげに、ため息を吐く。

「それは、俺も仕事をしていて常々思う。だけど、さらさらのAshは、使えねぇんだ」
「なぜ?」
「お前、さらさらのAshを触ったか?」

 アーシャに問われ、僕は彼に会う直前に、手の中に降り積るように落ちてきたサンドパウダーの感触を思い出す。

「うん。さらさらで温かかった」
「そうか。じゃあ、今、削り出したAshを触ってみろ」

 アーシャは促すように顎をしゃくり、視線を、僕の手元に向ける。僕は、話をしながらもガジガジと動かしていた熊手を、そっと地面に置くと、ようやく少し削り出されたAshを両手で掬った。

 途端に、僕は目を見張った。削ったことで、さらさらの粒子にはなっていたが、温かいと思っていたそれは、とてもひんやりとしていた。

「冷たい……」