「お前は、この世界ではイレギュラーと呼ばれる存在だ。本来なら、お前のような跡継ぎ候補は、この世界へ来る前に、これから、どういう仕事をしなければならないかの説明をきちんと受けてから、俺たちのもとに送られてくる。だけど、稀に、なんの知識もないままこの世界へやってくる奴がいるんだ。そういう奴を、この世界では“イレギュラー”と呼んでいる」
アーシャは、息も付かずに一息に説明した。いきなり捲し立てられる言葉に僕の思考はなかなか追いつかない。
「……イレギュラー……」
それだけをポツリと口にして、僕はぼんやりと周りを見回した。アーシャの言う“この世界”とは、この見渡す限りサンドパウダーの降り積る世界のことを言っているのだろうか。
ぼんやりとしている僕に困り果てたのか、それとも、勢いよく喋りすぎたせいなのか、威勢の良かったアーシャの声は、ワントーン低くなり、どこか投げやりな感じで、愚痴が零れ落ちていく。
「あ~。くそっ。面倒くせぇなぁ。まぁ、イレギュラーって言ったって、前例がないわけじゃないし。俺のもとには跡継ぎ候補の連絡が来てたんだから、完全なる“処理漏れ”ってわけじゃないだろうけど。あ~、あとで、連絡かぁ。マジ、だりぃ」
「あ、あの……ごめんなさい」
アーシャの愚痴を拾うように、僕は俯き頭を下げる。下を向いたまま砂に埋もれた爪先をじっと見つめていると、不意に、大きな爪先が視界に入ってきた。そして、ポンと大きな手が僕の頭に置かれる。ゆっくりと頭を上げると、僕を見下ろすアーシャと目が合った。
「まぁ、お前のせいじゃないから。気にすんな。行くぞ。お前は、イレギュラーだからな。仕事をゼロから教えなくちゃならないんだ。さっさと始めよう」
「あ、あの……」
「いいから、ついて来い!」
アーシャは再び踵を返し、道のない道を歩き始めた。僕は、彼がサンドパウダーにつけた足跡をたどるようにして、そっと後について歩き出す。
アーシャが無言で歩き続けるので、僕も口を噤み、周りを見ながら歩く。空から零れ落ちてくるサンドパウダーの降り積った道は、足を取られて歩きにくい。それでも、前を行くアーシャの後を追っているうちに、いつの間にか、さらさらキラキラとした音が聞こえなくなり、気がつけばサンドパウダーは落ちて来なくなった。
「今日は、この辺りだな」
アーシャは爪先で地面を少し抉っている。そこは、先ほどまでの砂よりも少し硬そうに見えた。
アーシャは、息も付かずに一息に説明した。いきなり捲し立てられる言葉に僕の思考はなかなか追いつかない。
「……イレギュラー……」
それだけをポツリと口にして、僕はぼんやりと周りを見回した。アーシャの言う“この世界”とは、この見渡す限りサンドパウダーの降り積る世界のことを言っているのだろうか。
ぼんやりとしている僕に困り果てたのか、それとも、勢いよく喋りすぎたせいなのか、威勢の良かったアーシャの声は、ワントーン低くなり、どこか投げやりな感じで、愚痴が零れ落ちていく。
「あ~。くそっ。面倒くせぇなぁ。まぁ、イレギュラーって言ったって、前例がないわけじゃないし。俺のもとには跡継ぎ候補の連絡が来てたんだから、完全なる“処理漏れ”ってわけじゃないだろうけど。あ~、あとで、連絡かぁ。マジ、だりぃ」
「あ、あの……ごめんなさい」
アーシャの愚痴を拾うように、僕は俯き頭を下げる。下を向いたまま砂に埋もれた爪先をじっと見つめていると、不意に、大きな爪先が視界に入ってきた。そして、ポンと大きな手が僕の頭に置かれる。ゆっくりと頭を上げると、僕を見下ろすアーシャと目が合った。
「まぁ、お前のせいじゃないから。気にすんな。行くぞ。お前は、イレギュラーだからな。仕事をゼロから教えなくちゃならないんだ。さっさと始めよう」
「あ、あの……」
「いいから、ついて来い!」
アーシャは再び踵を返し、道のない道を歩き始めた。僕は、彼がサンドパウダーにつけた足跡をたどるようにして、そっと後について歩き出す。
アーシャが無言で歩き続けるので、僕も口を噤み、周りを見ながら歩く。空から零れ落ちてくるサンドパウダーの降り積った道は、足を取られて歩きにくい。それでも、前を行くアーシャの後を追っているうちに、いつの間にか、さらさらキラキラとした音が聞こえなくなり、気がつけばサンドパウダーは落ちて来なくなった。
「今日は、この辺りだな」
アーシャは爪先で地面を少し抉っている。そこは、先ほどまでの砂よりも少し硬そうに見えた。