キャロライン・ルルイエ。
ルルイエ家の長女。
学生。
友人が多く、明るい性格だったと伝えられる。
父、ヘンリー・ルルイエ。
ルルイエ家の一人息子。
貿易商。祖父の仕事を継いだ。
誕生と同時期に父親が失踪。
母親との折り合いも悪く、祖父母が親代わりだったとされる。
母、キャサリン・ルルイエ。
アンダーソン家の長女。
明るく真面目だったとされている。
叔母、アデリン・アンダーソン。
アンダーソン家の次女。
騒がしく不真面目だったとされている。
三十歳を過ぎての独身は今以上に珍しく、世間体の悪いものだった。
妹、ルイーザ・ルルイエ。
ルルイエ家の次女。
通学記録なし。
家庭教師を雇っていた形跡、なし。
友人の存在、確認できず。
○ルルイエ家の元執事へのインタビュー。
――ヘンリー様とキャサリン様は非常に仲の良いご夫婦でございました。
ヘンリー様が不倫をなさっていただなんて考えられません!
――ヘンリー様はご結婚に際し、奥様の苗字になることを望んでおいででした。
父親の苗字から離れようとなさっておられたのです。
それほどにお父様を恨んでおられたのでございます。
ですがパトリシア様が猛反対をなされまして、もしルルイエの名を捨てるならヘンリー様を相続から外すとまで申されまして、やむを得ず……
パトリシア様のご両親は大変な資産家ですし、ヘンリー様は一人息子でございましたので……
――そもそもルルイエとは一体全体どこの国の言葉なのでしょう。
ジェルマン様のお名前がジャーメインのフランス語読みだというのはわかるのですが、フランス人の知人に尋ねて回ってもルルイエなんて言葉は初めて聞いたと言うばかりでございまして……
いえいえ、決して独断で詮索をしたわけではございません。ヘンリー様のご命令を受けてのことでございます。
ああ、はい、サン・ジェルマン・ルルイエ伯爵というのがヘンリー様のお父様のお名前でございます。キャロラインお嬢様のおじい様でございます。
スペインの貴族だと自称しておられましたが、このお名前はスペイン語でもございませんね。
――サン・ジェルマン様にお会いしたのは、あのかたがパトリシア様と結婚なさる直前……
私がまだ見習いとしてパトリシア様のご実家に仕え始めたばかりの、ほんの若僧だったころのことです。
パトリシア様の指に輝くダイヤのような、ぞっとするほど青い目をしたかたでございました。
失礼。ぞっとするほどと言うのは適切ではございませんでした。
何とも言えぬ妖艶な青色なのでございます。
海の青にも空の青にも例えられない不気味な……いやいや、ミステリアスな青でございました。
※記者、質問。
サン・ジェルマン・ルルイエの瞳の色がルイーザ・ルルイエの瞳と同じだというのは本当か。
「恥ずかしながら私、ルイーザ様にお会いしたことは一度もないのでございます」
※記者、質問。
執事の退職届の日付けがルイーザの生年月日と一致している件について。
――良くそんな紙切れが残っておりましたな。
いやいや、良くお調べで……。
私からはこれ以上は何も申し上げられません。
狂人呼ばわりされるのは嫌ですからな。
まあ、この年では何を言ったところで耄碌したのだと思われるだけですかな。
――ええ、ええ。あの屋敷には長く勤めさせていただきましたとも。
パトリシア様のご両親にも可愛がっていただきましたとも。
それでもね、一瞬で逃げ出すような事態が起きたのですよ。
逃げる前にきちんと手続きを済ませた自分を今でも褒めてやりたいですよ。
あなたほどの記者のかたなら、すでに調べてあるのでしょう?
どれほどの数の使用人が、あの日を境に屋敷を去ったか――
◯ルルイエ家の元メイドへのインタビュー
――アタシはその日は用事があって屋敷に居なかったんですよ。
何の用だったかはもう忘れちまいましたが、忘れるぐらいなんだから、たいした用じゃなかったんでしょうね。
とにかく帰ってきたらルイーザお嬢様が生まれてらしたんですよ。
キャサリン奥様には妊娠しているような素振りはまったくありませんでしたよ。
だからってそれが何だってあそこまでの大騒ぎにならなきゃいけなかったんだかアタシにゃサッパリです。
同僚たちには運が良かっただのうらやましいだの散々言われましたけれどね、何のことかって訊いても誰もマトモに答えてくれないんじゃ、ただの嫌味でしかありませんやね。
死んだのはキャサリン奥様だけでしたよ。
医者も警察もアタシが呼びました。
何せあのときあの屋敷でマトモだったのはアタシ一人だけでしたからね。
使用人はみんなパニックになって泣き叫んで、本当なら一番落ち着いてなきゃいけない執事が一番最初に逃げ出したって言うんですからね。
そのせいであの執事がキャサリン奥様を殺したんじゃないかなんて疑ったりもしましたけどね、キャサリン奥様の死因は心臓麻痺だそうですよ。
おとなしくしてらしたのはパトリシア大奥様だけでしたよ。
それだってあとで考えたら呆然としてただけだったんでしょうけれどね。
ものすごい死に顔でしたよ。
大変なショックを受けたんでしょうね。
ルイーザお嬢様が、旦那様が愛人に産ませた子だってウワサはアタシだって知ってますけどね。
仮にそうだとして、それを突きつけられたのがキャサリン奥様の心臓が止まった原因だなんていうのは、あのかたの死に顔を見てない人の言うことですよ。
アナタ、悪魔って見たことあります?
アタシだって本の挿し絵でしか知りませんがね。
アレが本の中から抜け出てきたとしたって、それを見ただけではあんな死に顔にはならないと思いますよ。
本の挿し絵なんて所詮は人間が考えて描いたものじゃないですか。
きっとキャサリン奥様は、そんなのじゃない、本物の悪魔を見てしまったんですよ――
◯別のメイドへのインタビュー
――ルイーザを産んだのはパトリシアだよ。
産んだって言い方は正しくないよ。
ありゃあ分裂したんだよ。
分裂って知ってるかい? アタシゃこの言葉はこっちに来てから覚えたんだ。
それまでは説明するのに苦労したよ。
説明したところで誰も信じちゃくれないがね。
ありゃあ人間じゃない。
アタシらが知ってるような、まっとうな生きモンとは別のモンさ。
化け物だよ。
そうとしか言いようがないね――
取材場所。XX精神病院。
ルルイエ家の長女。
学生。
友人が多く、明るい性格だったと伝えられる。
父、ヘンリー・ルルイエ。
ルルイエ家の一人息子。
貿易商。祖父の仕事を継いだ。
誕生と同時期に父親が失踪。
母親との折り合いも悪く、祖父母が親代わりだったとされる。
母、キャサリン・ルルイエ。
アンダーソン家の長女。
明るく真面目だったとされている。
叔母、アデリン・アンダーソン。
アンダーソン家の次女。
騒がしく不真面目だったとされている。
三十歳を過ぎての独身は今以上に珍しく、世間体の悪いものだった。
妹、ルイーザ・ルルイエ。
ルルイエ家の次女。
通学記録なし。
家庭教師を雇っていた形跡、なし。
友人の存在、確認できず。
○ルルイエ家の元執事へのインタビュー。
――ヘンリー様とキャサリン様は非常に仲の良いご夫婦でございました。
ヘンリー様が不倫をなさっていただなんて考えられません!
――ヘンリー様はご結婚に際し、奥様の苗字になることを望んでおいででした。
父親の苗字から離れようとなさっておられたのです。
それほどにお父様を恨んでおられたのでございます。
ですがパトリシア様が猛反対をなされまして、もしルルイエの名を捨てるならヘンリー様を相続から外すとまで申されまして、やむを得ず……
パトリシア様のご両親は大変な資産家ですし、ヘンリー様は一人息子でございましたので……
――そもそもルルイエとは一体全体どこの国の言葉なのでしょう。
ジェルマン様のお名前がジャーメインのフランス語読みだというのはわかるのですが、フランス人の知人に尋ねて回ってもルルイエなんて言葉は初めて聞いたと言うばかりでございまして……
いえいえ、決して独断で詮索をしたわけではございません。ヘンリー様のご命令を受けてのことでございます。
ああ、はい、サン・ジェルマン・ルルイエ伯爵というのがヘンリー様のお父様のお名前でございます。キャロラインお嬢様のおじい様でございます。
スペインの貴族だと自称しておられましたが、このお名前はスペイン語でもございませんね。
――サン・ジェルマン様にお会いしたのは、あのかたがパトリシア様と結婚なさる直前……
私がまだ見習いとしてパトリシア様のご実家に仕え始めたばかりの、ほんの若僧だったころのことです。
パトリシア様の指に輝くダイヤのような、ぞっとするほど青い目をしたかたでございました。
失礼。ぞっとするほどと言うのは適切ではございませんでした。
何とも言えぬ妖艶な青色なのでございます。
海の青にも空の青にも例えられない不気味な……いやいや、ミステリアスな青でございました。
※記者、質問。
サン・ジェルマン・ルルイエの瞳の色がルイーザ・ルルイエの瞳と同じだというのは本当か。
「恥ずかしながら私、ルイーザ様にお会いしたことは一度もないのでございます」
※記者、質問。
執事の退職届の日付けがルイーザの生年月日と一致している件について。
――良くそんな紙切れが残っておりましたな。
いやいや、良くお調べで……。
私からはこれ以上は何も申し上げられません。
狂人呼ばわりされるのは嫌ですからな。
まあ、この年では何を言ったところで耄碌したのだと思われるだけですかな。
――ええ、ええ。あの屋敷には長く勤めさせていただきましたとも。
パトリシア様のご両親にも可愛がっていただきましたとも。
それでもね、一瞬で逃げ出すような事態が起きたのですよ。
逃げる前にきちんと手続きを済ませた自分を今でも褒めてやりたいですよ。
あなたほどの記者のかたなら、すでに調べてあるのでしょう?
どれほどの数の使用人が、あの日を境に屋敷を去ったか――
◯ルルイエ家の元メイドへのインタビュー
――アタシはその日は用事があって屋敷に居なかったんですよ。
何の用だったかはもう忘れちまいましたが、忘れるぐらいなんだから、たいした用じゃなかったんでしょうね。
とにかく帰ってきたらルイーザお嬢様が生まれてらしたんですよ。
キャサリン奥様には妊娠しているような素振りはまったくありませんでしたよ。
だからってそれが何だってあそこまでの大騒ぎにならなきゃいけなかったんだかアタシにゃサッパリです。
同僚たちには運が良かっただのうらやましいだの散々言われましたけれどね、何のことかって訊いても誰もマトモに答えてくれないんじゃ、ただの嫌味でしかありませんやね。
死んだのはキャサリン奥様だけでしたよ。
医者も警察もアタシが呼びました。
何せあのときあの屋敷でマトモだったのはアタシ一人だけでしたからね。
使用人はみんなパニックになって泣き叫んで、本当なら一番落ち着いてなきゃいけない執事が一番最初に逃げ出したって言うんですからね。
そのせいであの執事がキャサリン奥様を殺したんじゃないかなんて疑ったりもしましたけどね、キャサリン奥様の死因は心臓麻痺だそうですよ。
おとなしくしてらしたのはパトリシア大奥様だけでしたよ。
それだってあとで考えたら呆然としてただけだったんでしょうけれどね。
ものすごい死に顔でしたよ。
大変なショックを受けたんでしょうね。
ルイーザお嬢様が、旦那様が愛人に産ませた子だってウワサはアタシだって知ってますけどね。
仮にそうだとして、それを突きつけられたのがキャサリン奥様の心臓が止まった原因だなんていうのは、あのかたの死に顔を見てない人の言うことですよ。
アナタ、悪魔って見たことあります?
アタシだって本の挿し絵でしか知りませんがね。
アレが本の中から抜け出てきたとしたって、それを見ただけではあんな死に顔にはならないと思いますよ。
本の挿し絵なんて所詮は人間が考えて描いたものじゃないですか。
きっとキャサリン奥様は、そんなのじゃない、本物の悪魔を見てしまったんですよ――
◯別のメイドへのインタビュー
――ルイーザを産んだのはパトリシアだよ。
産んだって言い方は正しくないよ。
ありゃあ分裂したんだよ。
分裂って知ってるかい? アタシゃこの言葉はこっちに来てから覚えたんだ。
それまでは説明するのに苦労したよ。
説明したところで誰も信じちゃくれないがね。
ありゃあ人間じゃない。
アタシらが知ってるような、まっとうな生きモンとは別のモンさ。
化け物だよ。
そうとしか言いようがないね――
取材場所。XX精神病院。