秋も深まり、流星と篤の大学の推薦が決まった。そろそろ、瑠偉の高校進学の事も考えなくてはならない。
 瑠偉は、それでも毎日練習に来た。だが、勉強道具も持ってきた。
「あれ、瑠偉、宿題か?」
碧央が声を掛けると、
「うん。来週テストがあって、その日に提出なんだ。」
と、瑠偉が応える。すると光輝が、
「お前、テスト前なのにここに来ていていいのか?って、僕も来てるけど。あはは。」
と言って笑った。
「碧央くん、ここ教えて。」
瑠偉は碧央に問題集を見せた。
「ん?どれどれ?あ、英語?あー、英語なら流星くんに教えてもらった方がいいよ。」
碧央は流星に水を向けた。
「なに?」
名前を呼ばれ、流星が反応すると、
「流星くん、これ、分からないんだけど、教えて。」
瑠偉が問題集を持って流星のところへ行った。流星はさっと目を通し、パパッと教えてくれた。一同、尊敬のまなざし。
「じゃあ、じゃあ、こっちのも教えて。」
瑠偉は、今度は数学の問題集を持って流星のところへ行った。
「どれどれ?……ああ、俺文系なんだよねー。篤は?」
流星は篤に水を向ける。だが、
「は?俺は、サッカーで高校入った口だから、ダメダメ。」
篤は手でバッテンを作った。
「瑠偉、見せてみな。……ああ、これはこうやって……。」
大樹が、解き方を瑠偉に教えてあげた。
「大樹くんって、理数系なんだ?だから機械に強いんだね。」
碧央がそう言うと、一同、納得の頷き。
「そろそろさ、2曲目を作り始めたらどうかな。俺、作詞の方を始めておこうか。」
流星が言った。
「あれだな、瑠偉は受験だから、ボランティアには同行しないかもしれないよな。そうしたら、瑠偉が1人で歌うところを無くしておいた方がいいのかもよ。」
と、篤が言うと、
「いや、メインボーカルは瑠偉だよ。今、俺たちの中で一番歌が上手いのは、瑠偉だ。」
と、大樹が言った。
「え?そうなの?……まあ、そうだな。」
一瞬驚いた声を出した篤だが、やはり納得なのだ。
「若い時からヴォイストレーニングを始めると、上手くなるのかな。」
流星が言うと、
「元々音楽の才能があったんじゃない?ギターも独学で弾けちゃうくらいだし。」
と、光輝が言った。
「才能もあるだろうけど、こいつはすごく努力してんだよ。真面目だもん。」
と、碧央が言い、これまた一同納得の頷き。
「え、そんな事ないよ。ないない。」
瑠偉は小さくなって言った。
「さあ、次の歌はどんな内容にする?」
涼が言った。
「そうだな、1曲目はいろいろ取り入れた気がするから、今度はもっと問題を絞って行きたいな。ゴミを減らす事なのか、水を大事にする事なのか、森を守ろうって事なのか。」
と、流星が言った。すると、瑠偉が口を開いた。
「僕思うんだけど……前に家庭科でマイ箸入れを作ったんだ。割り箸を使わずに、マイ箸を持ち歩こうっていう事で。木を伐り過ぎるのが地球の環境に良くないんでしょ?ところがさ、最近海洋プラスチック問題が目立ってきたらさ、ビニール袋はダメで、紙袋ならいい、みたいなさ。プラスチックコップじゃなくて紙コップにしようとか?なんか、プラスチックがダメなら紙をたくさん使おうってなっちゃってるじゃん。でも、紙をたくさん使ったら、やっぱり木がたくさん伐採されちゃうでしょ?紙もプラスチックも、使い捨てを無くそうとしなきゃさ。」
瑠偉の言葉に流星も、
「なるほど、なるほど。瑠偉の言いたいことはわかるよ。今、ビニール製の買い物袋は有料にしなければならないけど、紙袋は無料で配布してもいいんだよな。店舗によっては有料にしているけれど。確かに、割り箸の話はどっか行っちゃったよなー。よし、その切り口でいこう。」
と賛同した。メンバーは、割り箸を突破口にして、2曲目の作成にとりかかった。

 新曲の作成を年上のメンバーたちに任せて、瑠偉は少しの間レッスンをお休みし、2学期最後のテスト勉強を頑張った。芸能科のある私立高校を目指しており、推薦を取るためには2学期最後の成績が重要だった。何とかテスト勉強を頑張って、その規定の水準をクリアすることができた。

 一方、デビュー曲の「Shout」は、ウェブ上で売り出した。まあ、それはあまり売れていない。けれども、ダンスの動画を配信したら、そちらのアクセス数は徐々に伸びて行った。被災地での活躍も、地方局で少し取り上げられた。けれども、まだまだ収入が得られるような状態ではなかった。