STEのメンバーは、次の週末にも被災地を訪れた。お揃いの服も買ってもらって、その上に例のTシャツを着る。そろそろもう1枚Tシャツを用意した方が良さそうである。
「ああ、どうも。こちらへどうぞ。」
自治体の職員がそう言って、みんなを案内してくれた。避難所になっている中学校の体育館に行くと、ステージの方へ通された。
「こんにちはー!」
STEのメンバーは挨拶も忘れない。だが、みんな内心はヒヤヒヤのドキドキである。彼らが登場すると、避難している人たちが、拍手をして迎えてくれて、みんなちょっとホッとしたのだった。
「さあ、頑張ろう。もしどっかでミスっても、そのまま続けような。」
流星が小さい声でみんなに言った。みんな、小さく頷いた。
 そして音楽が流れ、歌とダンスを披露した。何度も何度も、ぴったり揃うまで練習したダンス。大方上手く行った。ただ、避難している人たちは、ほとんどがお年寄り。他は妊婦さんや小さい子供とそのお母さんくらい。大歓声というわけには行かなかった。だが、みなさんニコニコして拍手をしてくれた。
「俺、けっこう今満足なんだけど。」
パフォーマンスを終えて、まず碧央がそう言った。
「僕も。」
光輝もそう言って、ニコッと笑った。すると、
「ありがとうございました。あの、出来ればまた来週にでも、別の避難所でお願いできませんか?」
と、職員に言われた。植木は、
「はい、喜んで。」
と、間髪入れずに答えた。

 帰りの車の中でSNSをチェックすると、いくつかSTEの動画が出ていた。みんなは「わ―ぉ!」と言って興奮した。
「俺、ちょっとミスっちゃったんだよなー。」
篤が苦笑いをして言った。
「こうやって残っていっちゃうんだよね。怖いねー。」
涼が言う。
「なんか、まるで芸能人みたいじゃない?」
碧央がそう言うと、
「そうだよねー、芸能人になった気分だよねー。」
と、光輝が追随した。植木と内海はこっそり笑った。だから、もうアイドルだって言ってるのに。

 翌週、前回とは別の避難所へ行くと、
「キャー!来たー!」
と、若い女の子たちが歓声を上げ、
「待ってたわよー!」
と、おばちゃんたちに声を掛けられた。思った以上に歓待され、メンバーはびっくり。
「俺たちさ、そろそろメイクとかした方がよくないか?」
篤がこっそりそう言って笑った。
 今回もShoutを披露した。たくさんの中学生くらいの女の子たちが見に来ていて、動画などを撮られた。更に、自己紹介も求められた。実はこの1週間、その練習もしていたのだ。
 流星が、
「せーの!」
と掛け声を掛け、メンバー全員で、
「こんにちは!Save The Earthです!」
と、揃って言えた。実は、この1週間の間には芸名論争もあった。
「君たちのニックネームは、マーク先生がつけてくれたやつでいいんじゃないか?」
植木が言い、
「ああ、あのムーンとかウッドとかですか?」
と、流星が言うと、
「えー、俺ファイヤーなんて嫌だよ。」
と、篤が嫌そうに言った。
「ファイヤー篤ってのは?かっこいいじゃん。」
と、瑠偉が本気なのか冗談なのか分からない調子で言うと、
「プロレスラーみたいじゃん!」
と、篤は却下した。
「俺なんてウォーターだよ。かっこ悪いよ。」
涼が悲しそうな顔で言い、
「僕も、ゴールドなんて嫌だー!碧央はクレイだからいいよね。かっこいいよ。」
と、光輝が言った。碧央は、
「うん。クレイでいい。」
と言い、瑠偉も、
「僕もサンでいい。」
と言った。
「まあ、今後海外向けには英語名の方がいいと思うんだけどな。でも、君たちが嫌なら、本名でもいいけど。」
植木がそう言い、議論は紛糾したが、結局、
「ムーンこと、月島流星、18歳です。」
「ファイヤーこと、不知火篤、18歳です。」
「ウォーターこと、水沢涼、17歳です。」
「ウッドこと、木崎大樹、17歳です。」
「ゴールドこと、金森光輝、16歳です。」
「クレイこと、土橋碧央、16歳です。」
「サンこと、日野瑠偉、15歳です。」
と、自己紹介したのだった。
 パフォーマンスをすると、やはり間奏のところでおぉー!となって、歌い終わると拍手喝采を浴びた。そして、その後に周辺の住宅のゴミの片付けを手伝った。だいぶ町も片付いてきたので、この町に来るのはこれを最後にする事にした。
「あー!何これ、ファイヤー篤かっこいい、だって。やっぱりプロレスラーみたいだよー。」
帰りの車で、SNSをチェックしていた篤が嘆いた。みんなが笑う。そしてそれぞれチェックする。
「……ボランティア戦隊曜日レンジャー?名前がダサすぎ……だって。」
碧央がそう言うと、
「こっちには、いい子ちゃんぶってる奴らって書いてある。僕たちの写真付きで。」
と、光輝が言った。植木は、
「世の中には、いろんな事を言う人がいる。良い事でも、必ず批判されるんだ。気にするな。」
と言った。流星も、
「そうだよ。こんなにたくさん、かっこよかったとか、手伝ってくれて助かったとか、いい事いっぱい書いてあるぞ。」
と言った。碧央はそれを聞き、
「うん、そうだよね。」
と言った。
「世の中の声は、批判する方が大きくなりがちだ。批判する内容を見たら、必ずその後に肯定している投稿も見るように。バランスを取るんだよ。」
運転しながら、内海が諭した。