植木は事務所を構えた。いつも違うレッスン場を借りていたが、常に同じ場所で練習ができるようにした。つまり、地下にスタジオがある建物の2階に事務所を置き、毎日夜はそのレッスン場を借りるという契約をしたのだ。
レッスン場に集まったメンバーに、植木は早速曲作りについて話をした。
「さて、君たちのオリジナル曲を作ろう。だが、作詞家作曲家を雇う金がない。」
植木がメンバーを見渡すと、メンバーはみなキョトンとしていた。
「じゃあ、どうするんですか?それもボランティアを募るんですか?」
と、涼が聞いた。
「いやいや、曲は君たちが作るんだよ。その方が絶対いい。」
植木が応えると、流星が、
「作詞なら何とかできるかもしれないけど、作曲は難しいんじゃないですか?」
と言った。
「誰か、楽器が出来る人はいないか?」
植木がそう問いかけると、お互いを見渡したのち、大樹と瑠偉が手を上げた。
「俺は、ピアノを習っていたので、多少は弾けます。作曲もまあ、パソコンでやったことあるし、出来るかも。」
と、大樹が言った。全員が、
「おー!!」
と歓声を上げた。
「瑠偉は?何ができるの?」
植木が瑠偉に問いかけた。
「あ、僕はギターをちょっと。習ったわけではないけど、独学でちょこっと。」
と、瑠偉が言ったので、
「すげーじゃん、瑠偉。」
碧央がそう言って、瑠偉の肩に腕を回した。瑠偉は照れくさそうに笑った。
「そうかそうか。でもな、作詞も作曲も独りでやることはない。みんなで力を合わせて作ればいいさ。それから、振り付けも君たち自身で決めるんだ。振付師を雇う余裕もないからな。」
植木が言うと、
「やっぱりそうきたか。振り付けなら任せてよ。俺、いつもやってたから。」
と、涼が言い、
「わぉ、頼もしいね。僕も、新体操やってたから、少しはお役に立てるかも。」
光輝が小首を傾げて可愛く言った。すると、メンバーは一斉に無言で光輝の肩をこづいたのだった。ニヤニヤしながら。
「なんだよー。」
光輝もそう言って、ニヤニヤした。
ボランティアの先生は来たり来なかったりするので、先生が来ない日は、作詞、作曲、振り付けと、順番に取り組んだ。
「歌詞だけどな、デビュー曲だし、我々の目的は地球を救うことなので、それに関連した歌詞にして欲しいんだ。こう、みんなで出来る事からやって行こう!みたいな。」
植木が言うと、碧央が、
「俺、この間ゴミ拾いしていて思ったんだけど、あれってさ、みんながゴミを海に捨てるからいけないじゃん。だから俺たちとか、おっちゃんおばちゃんたちがゴミ拾いするわけじゃん?でも、もっと他にやった方がいい事っていうか、助けが必要な所があると思うんだよ。それなのに、誰かがゴミを投げ捨てたせいで、ゴミ拾いに人員を割かなければならないのって、勿体ないと思うんだよね。ただ、ゴミを海に捨てなければいいのにさ。もっと、助けないといけない所に人手を回さないと。」
と言った。
「そうだよな。そういうのを、訴えていきたいよな。」
と、大樹が言い、
「うん、なるほど。他に何か意見ない?そういうの、まとめて行こうよ。」
と、流星が言った。すると瑠偉が、
「僕はさ、水道を出しっぱなしにする人を見ると、許せないんだよね。水がないとすっごく困るのにさ、大事にしない人がいるのって信じらんない。」
と言った。いろいろ意見が出始めたのを見て、植木はそっとその場を離れたのだった。
時間はかかったが、みんなの納得のいくものがとうとう出来た。
「社長、デビュー曲が出来ました!」
流星が事務所へ持って来たUSBを、植木はPCに差し込んで聴いた。すると、植木と内海は驚いた。
「……驚いたな。」
植木がうなった。
「どうですか?」
流星が問う。
「いや、驚いたよ。こういう感じだとは思っていなかったものだから。いや、いいよ。うん。オリジナリティーがあって、非常にいい!」
植木が言った。内海も、
「うん、いいよ。いやあ、驚いたな、僕も。」
と言った。
「よかった。Save The Earthにふさわしい内容になっていますよね?」
と、流星が言ったので、植木も、
「ああ、そうだな。いやあ、確かに地球を救おうっていう内容なんだけど、こういう感じだとはなぁ、いやあ、驚いた。」
と言った。植木たちが驚いたのはなぜか。歌詞は以下の通りである。
― 海にゴミを捨てたやつは誰だ まだ使えるのにすぐに捨てるやつは誰だ
電気も水も排気ガスも 出しっぱなしにするやつは誰だ
お前か 俺か 俺たちか
そうやって なんも考えないで 地球を汚している
いつか 俺たちは自分の首をしめる
木が枯れる 飢餓に苦しむ
空が霞む 目がかすむ
気温が上がる 海水上がる 熱中症! 洪水津波!
地球が悲鳴を上げている 動物も鳥も虫も人も 地球と共に生きている
気づけ 気づけよ 気づいてくれよ 植物が叫んでる 鉱物が叫んでる ―
「ヒップホップかぁ。そう来たかぁ。そうだよな、大樹はDJやってたんだし、涼や瑠偉はヒップホップダンスをやってたんだもんな。」
内海もうなった。ラップ調で始まるダークな感じの曲で、歌詞もひどく挑戦的な雰囲気だ。植木と内海は、もっと良い子ちゃん的な、アイドル風の歌を想像していたので、とても驚いたのだった。
「今、振り付けの方をみんなでやってますんで。では。」
流星はレッスン場へ戻って行った。植木と内海は顔を見合わせ、ただ笑ったのだった。あいつら、やるな、と。
レッスン場では、涼が張り切っていた。
「フォーメーションは、全部で5つ。歌う人がセンターに来て、歌い終わったらさっと後ろに下がる。後ろを見ないで下がるんだぞ。」
すると碧央が、
「これ、覚えられるかなぁ、俺。」
と、自身なさげに言い、
「大丈夫だよ。曲に合わせて何度もやっていけば、覚えられるよ。」
と、光輝が言った。そこへ流星がやってきた。
「おーい、曲のOKが出たぞ。何?ああ、フォーメーション?……この紙コピーしていい?」
流星が涼の持っていた紙を指さして言うと、
「流星くん、図を頭で覚えちゃだめだよ。耳と体で覚えなきゃ。」
と、涼に言われてしまった。そこで篤が、
「そうそう、何とかなるよ。さ、やってみようぜ。」
と、明るく言った。
「うーん、もうちょっとインパクトのある振りを入れないとダメだなあ。」
涼が首を捻る。
「光輝はバック転とか、できるんだろ?篤くんも宙返りが出来るんだし、そういうのを入れるとか?」
大樹が言うと、
「うーん、でもさ、そういう、アクロバットできる人が間奏とかに披露するのって、他の男性アイドルがやってるじゃん?定番じゃん?うちは、そういうのとは違うものにしたいんだよね。」
と、涼が言った。
「ああ、なるほど。確かに某事務所のアイドルの定番だね。あと、歌う人と踊る人が別れてるってのも、わりとありがちだよね。」
大樹が言うと、
「そうなんだよ。歌はみんなで均等に割り振ったから、ダンスもみんなで同じように、揃えてやりたいなぁって思うんだよ。」
と、涼が応える。
「今はさ、歌いながらできるような振り付けしか入れてないけど、間奏のところでは、すっごく速い振りつけを入れてみたらどうかな。おおーってなるような。」
光輝が言った。
「うんうん、そうだな。おおーってなるようなの、やっぱり入れよう。瑠偉、お前何かアイディアないか?」
と、涼が瑠偉に振った。
「え?僕?うーん、じゃあ、こういうのは?」
瑠偉が今までの振り付けの倍速で手足を動かす。
「おぉー!それ、かっこいい!」
みんなが声を揃える。しかし流星は、
「いや、俺にはできそうもないけど?」
と真顔である。
「やれるって!大丈夫だよ。練習しよう!」
涼がそう言って、流星の肩をポンと叩いた。
数日後、デビュー曲「Shout(叫び)」の振り付けが出来上がり、マーク先生に見てもらった。
「……けっこう難しいの付けたね。いや、でも、完璧にそろえてやったらすごいんじゃないか?うーむ、僕驚いたなー。」
マークは英語でそう言って、やはりうなった。自分たちで作ったにしては、曲も振り付けもなかなか。マークの全身に鳥肌が立った。
レッスン場に集まったメンバーに、植木は早速曲作りについて話をした。
「さて、君たちのオリジナル曲を作ろう。だが、作詞家作曲家を雇う金がない。」
植木がメンバーを見渡すと、メンバーはみなキョトンとしていた。
「じゃあ、どうするんですか?それもボランティアを募るんですか?」
と、涼が聞いた。
「いやいや、曲は君たちが作るんだよ。その方が絶対いい。」
植木が応えると、流星が、
「作詞なら何とかできるかもしれないけど、作曲は難しいんじゃないですか?」
と言った。
「誰か、楽器が出来る人はいないか?」
植木がそう問いかけると、お互いを見渡したのち、大樹と瑠偉が手を上げた。
「俺は、ピアノを習っていたので、多少は弾けます。作曲もまあ、パソコンでやったことあるし、出来るかも。」
と、大樹が言った。全員が、
「おー!!」
と歓声を上げた。
「瑠偉は?何ができるの?」
植木が瑠偉に問いかけた。
「あ、僕はギターをちょっと。習ったわけではないけど、独学でちょこっと。」
と、瑠偉が言ったので、
「すげーじゃん、瑠偉。」
碧央がそう言って、瑠偉の肩に腕を回した。瑠偉は照れくさそうに笑った。
「そうかそうか。でもな、作詞も作曲も独りでやることはない。みんなで力を合わせて作ればいいさ。それから、振り付けも君たち自身で決めるんだ。振付師を雇う余裕もないからな。」
植木が言うと、
「やっぱりそうきたか。振り付けなら任せてよ。俺、いつもやってたから。」
と、涼が言い、
「わぉ、頼もしいね。僕も、新体操やってたから、少しはお役に立てるかも。」
光輝が小首を傾げて可愛く言った。すると、メンバーは一斉に無言で光輝の肩をこづいたのだった。ニヤニヤしながら。
「なんだよー。」
光輝もそう言って、ニヤニヤした。
ボランティアの先生は来たり来なかったりするので、先生が来ない日は、作詞、作曲、振り付けと、順番に取り組んだ。
「歌詞だけどな、デビュー曲だし、我々の目的は地球を救うことなので、それに関連した歌詞にして欲しいんだ。こう、みんなで出来る事からやって行こう!みたいな。」
植木が言うと、碧央が、
「俺、この間ゴミ拾いしていて思ったんだけど、あれってさ、みんながゴミを海に捨てるからいけないじゃん。だから俺たちとか、おっちゃんおばちゃんたちがゴミ拾いするわけじゃん?でも、もっと他にやった方がいい事っていうか、助けが必要な所があると思うんだよ。それなのに、誰かがゴミを投げ捨てたせいで、ゴミ拾いに人員を割かなければならないのって、勿体ないと思うんだよね。ただ、ゴミを海に捨てなければいいのにさ。もっと、助けないといけない所に人手を回さないと。」
と言った。
「そうだよな。そういうのを、訴えていきたいよな。」
と、大樹が言い、
「うん、なるほど。他に何か意見ない?そういうの、まとめて行こうよ。」
と、流星が言った。すると瑠偉が、
「僕はさ、水道を出しっぱなしにする人を見ると、許せないんだよね。水がないとすっごく困るのにさ、大事にしない人がいるのって信じらんない。」
と言った。いろいろ意見が出始めたのを見て、植木はそっとその場を離れたのだった。
時間はかかったが、みんなの納得のいくものがとうとう出来た。
「社長、デビュー曲が出来ました!」
流星が事務所へ持って来たUSBを、植木はPCに差し込んで聴いた。すると、植木と内海は驚いた。
「……驚いたな。」
植木がうなった。
「どうですか?」
流星が問う。
「いや、驚いたよ。こういう感じだとは思っていなかったものだから。いや、いいよ。うん。オリジナリティーがあって、非常にいい!」
植木が言った。内海も、
「うん、いいよ。いやあ、驚いたな、僕も。」
と言った。
「よかった。Save The Earthにふさわしい内容になっていますよね?」
と、流星が言ったので、植木も、
「ああ、そうだな。いやあ、確かに地球を救おうっていう内容なんだけど、こういう感じだとはなぁ、いやあ、驚いた。」
と言った。植木たちが驚いたのはなぜか。歌詞は以下の通りである。
― 海にゴミを捨てたやつは誰だ まだ使えるのにすぐに捨てるやつは誰だ
電気も水も排気ガスも 出しっぱなしにするやつは誰だ
お前か 俺か 俺たちか
そうやって なんも考えないで 地球を汚している
いつか 俺たちは自分の首をしめる
木が枯れる 飢餓に苦しむ
空が霞む 目がかすむ
気温が上がる 海水上がる 熱中症! 洪水津波!
地球が悲鳴を上げている 動物も鳥も虫も人も 地球と共に生きている
気づけ 気づけよ 気づいてくれよ 植物が叫んでる 鉱物が叫んでる ―
「ヒップホップかぁ。そう来たかぁ。そうだよな、大樹はDJやってたんだし、涼や瑠偉はヒップホップダンスをやってたんだもんな。」
内海もうなった。ラップ調で始まるダークな感じの曲で、歌詞もひどく挑戦的な雰囲気だ。植木と内海は、もっと良い子ちゃん的な、アイドル風の歌を想像していたので、とても驚いたのだった。
「今、振り付けの方をみんなでやってますんで。では。」
流星はレッスン場へ戻って行った。植木と内海は顔を見合わせ、ただ笑ったのだった。あいつら、やるな、と。
レッスン場では、涼が張り切っていた。
「フォーメーションは、全部で5つ。歌う人がセンターに来て、歌い終わったらさっと後ろに下がる。後ろを見ないで下がるんだぞ。」
すると碧央が、
「これ、覚えられるかなぁ、俺。」
と、自身なさげに言い、
「大丈夫だよ。曲に合わせて何度もやっていけば、覚えられるよ。」
と、光輝が言った。そこへ流星がやってきた。
「おーい、曲のOKが出たぞ。何?ああ、フォーメーション?……この紙コピーしていい?」
流星が涼の持っていた紙を指さして言うと、
「流星くん、図を頭で覚えちゃだめだよ。耳と体で覚えなきゃ。」
と、涼に言われてしまった。そこで篤が、
「そうそう、何とかなるよ。さ、やってみようぜ。」
と、明るく言った。
「うーん、もうちょっとインパクトのある振りを入れないとダメだなあ。」
涼が首を捻る。
「光輝はバック転とか、できるんだろ?篤くんも宙返りが出来るんだし、そういうのを入れるとか?」
大樹が言うと、
「うーん、でもさ、そういう、アクロバットできる人が間奏とかに披露するのって、他の男性アイドルがやってるじゃん?定番じゃん?うちは、そういうのとは違うものにしたいんだよね。」
と、涼が言った。
「ああ、なるほど。確かに某事務所のアイドルの定番だね。あと、歌う人と踊る人が別れてるってのも、わりとありがちだよね。」
大樹が言うと、
「そうなんだよ。歌はみんなで均等に割り振ったから、ダンスもみんなで同じように、揃えてやりたいなぁって思うんだよ。」
と、涼が応える。
「今はさ、歌いながらできるような振り付けしか入れてないけど、間奏のところでは、すっごく速い振りつけを入れてみたらどうかな。おおーってなるような。」
光輝が言った。
「うんうん、そうだな。おおーってなるようなの、やっぱり入れよう。瑠偉、お前何かアイディアないか?」
と、涼が瑠偉に振った。
「え?僕?うーん、じゃあ、こういうのは?」
瑠偉が今までの振り付けの倍速で手足を動かす。
「おぉー!それ、かっこいい!」
みんなが声を揃える。しかし流星は、
「いや、俺にはできそうもないけど?」
と真顔である。
「やれるって!大丈夫だよ。練習しよう!」
涼がそう言って、流星の肩をポンと叩いた。
数日後、デビュー曲「Shout(叫び)」の振り付けが出来上がり、マーク先生に見てもらった。
「……けっこう難しいの付けたね。いや、でも、完璧にそろえてやったらすごいんじゃないか?うーむ、僕驚いたなー。」
マークは英語でそう言って、やはりうなった。自分たちで作ったにしては、曲も振り付けもなかなか。マークの全身に鳥肌が立った。