テレビ出演などに重点を置く年は、共演者や友達と会えるのが楽しい。そして、女性のみならず、最近は男友達からも人気の高い碧央は、番組の後に度々飲みに行っては、相変わらず潰れる。
「あーあ。やっぱり俺たち、無人島に引っ越す?」
男友達にタクシーで送られてきた碧央が、リビングのソファに横になり、氷嚢を頭に乗せられている。瑠偉が床に膝をつき、碧央の顔の傍に肘をつき、頬杖をついてそう言った。
「……ごめん。」
碧央はそう言うと、肘をついて起き上がり、ソファに座った状態で氷嚢をおでこに乗せた。瑠偉は碧央の隣に腰かけ、腕組みをした。碧央は横目でちらっと瑠偉を見た。怒っているようにしか見えない。
「……あのさ、碧央くんはお酒に弱いんだから、飲み方に気を付けないと。ただの友達とか、いっそ女の人ならまだ心配ないけど、この間みたいな事があったらさ。」
「はい。気を付けます。いや、気を付けているんだけどさあ。なんでだろうなあ、いつの間にか酔っぱらってて。」
「多分さ、相手が碧央くんを潰そうと思って飲ませているんだよ。俺たちメンバーと飲む時はさ、みんな碧央くんが飲み過ぎないようにさりげなく気を付けているけど、他のお友達はそうじゃないんでしょ。」
断定的で、ちょっと棘のある言い方だった。碧央は苦笑い。
「そっか、そうだな。もう、飲みに行かないよ。」
「え?……いや、行くなとは言ってないよ。」
「なんだよ、行くなって言ってるようなもんじゃん。」
碧央はちょっと笑って言った。
「うーん、そりゃ、飲みに行かない方がいいとは思うけど、それだと碧央くんの息抜きが無くなっちゃうし。」
瑠偉が戸惑いを見せる。
「お前だって、ほとんど飲みに行かないじゃん。お前は酒に強いのに。」
「俺は、メンバー以外に親しい友達もいないし。」
「じゃあ、俺も他の友達と付き合うのを辞めるよ。」
「そんなの、ダメだよ。」
「なんでだよ。お前、もっと俺の事縛れよ。」
「え?……縛られたいの?」
「おう。」
「なんで?もしかして、縛られている方が愛情感じるタイプ?」
「タイプかどうか知んないけど、俺はお前にもっと縛られたい。」
「なんだ。縛りたいのを我慢してたのに。」
瑠偉は拍子抜けした。だが、同時に懸念も生じる。
「碧央くん、もしかして俺の事も、もっと縛りたいとか?」
「ああ、縛りたいね。」
碧央はおでこに乗せていた氷嚢を外し、真正面から瑠偉の顔を見た。
「さっきも言ったけど、俺には親しい友達もいないし、これ以上縛り付ける必要なんてないでしょ?」
「メンバー以外には、だろ?メンバー内にはいるだろ。篤くんとか。」
「篤くん?」
「お前は、篤くんと仲良くしすぎだ。」
「そんな事……。」
否定しようとした瑠偉は、ストックホルムでの事が頭をよぎり、言葉を失くした。
 実はノーベル賞授賞式の翌日、碧央は篤が光輝に話しているのを聞いてしまったのだ。
「夕べ瑠偉がさあ、部屋を訪ねてきたと思ったら、俺の胸に飛び込んできてさ、泣きじゃくるんだよー。参ったよなあ、夜中だぜ。せっかく1人部屋だったのに。」
と、嬉しそうに話していたのだ。
「瑠偉、俺は友達と飲みに行くのを辞める。だから、お前は篤くんに抱きついたりするな。どうだ?俺の願い、聞いてくれるか?」
「碧央くん……分かった。でも、心配しなくても、俺が惚れているのは碧央くんだけだよ。」
2人はしばし、無言で見つめあった。すると、カシャッとシャッター音が鳴った。
「いやあ、絵になるねえ。ほら、この写真見ろよ。」
涼がいつの間にかリビングに来ていて、今撮った写真を碧央と瑠偉に見せた。
「涼くん、その写真ちょうだい。」
瑠偉がそう言った。
「いいよ、送るな。いやあ、この写真、ポストカードにして売った方がいいんじゃないか?」
涼は瑠偉に写真を送信すると、冷蔵庫から水を出し、コップに注いで飲んだ。そして、別のコップにも水を注ぎ、碧央のところへ持って来た。
「ほれ、飲みな。」
「あ、ありがとう。」
碧央はコップを受け取った。
「じゃ、お休み。」
涼は片手を上げてそう言い、部屋に戻って行った。瑠偉は、送られてきた写真を見てニヤニヤしている。
「何ニヤついてんだ?」
「これ、スマホの待ち受けにしようっと。」
「どれどれ?」
碧央は、自分の写真をあまり見ない。だが、珍しくこの写真は見ようとした。瑠偉が写真を見せると、
「ふーん。じゃあ、俺にも送って。俺も待ち受けにするから。」
と言った。
「え、珍しいね。自分の写真を待ち受けにするなんて。」
「自分の写真じゃねーよ。お前の、いや、お前と俺の写真だろ。」
そう言ってそっぽを向いた碧央に、瑠偉は思わず微笑んだ。その写真には、真剣に見つめ合う2人が写っていた。