翌朝、瑠偉はリビングに到着するなり、光輝を探した。夕べから、流星との事を聞こうとこの機を待ち構えていたのだ。
「あ、いた。光輝く……。」
声を掛けようとして、思いとどまった。コーヒーを飲んでいた光輝の隣には、同じくコーヒーを飲んでいる流星がいて、ちょうど瑠偉が光輝に声を掛けようとした時、光輝が流星の耳元に口を寄せ、何かを囁いたのだ。そして、2人はくすくすと笑う。
「ありゃ、聞くまでもないか。」
そっと呟いた。
「瑠偉、どうしたんだ?」
碧央が現れた。
「碧央くん、おはよう。あの2人、喧嘩でもしたかと思ったけど、問題ないみたいだね。」
瑠偉は目線で2人を示し、小声で言った。
「ああ……問題ないというより、進展したって感じだな。」
「えっ、そう?……本当だ。そっか、つまり……むふふ。」
瑠偉が笑うと、碧央もふっと笑って瑠偉の頭に手を置いた。
「変な笑い方してぇ。……可愛いけど。」
「え?」
「何でもないよ。」
「えへへ。」
そこへ、篤が現れた。
「おう、瑠偉。今日も可愛いな。」
そう言うと、篤は瑠偉の腕をさっと引っ張って、自分の腕の中に収めた。
「篤くん、おはよう。篤くんも相変わらずイケメンだね。」
「そうだろう?よしよし。」
篤が瑠偉の頭を撫でると、碧央が瑠偉の腕を引っ張って、篤から引きはがした。
「瑠偉、コーヒー淹れて。」
「はいはい。」
「あ、俺にも淹れて!」
めげない篤であった。

 「みんなに相談がある。」
植木が現れて、そう言った。
「何ですか?」
流星が問うと、植木が話し出した。
「今回の事で、俺もいろいろ考えた。君たちが、思うように音楽を作って、世界に発信していくには、この日本を出た方がいいのではないかと思うんだ。どうだろう?」
「日本を出て、またアフリカとかに行くんですか?」
大樹が聞いた。
「今度は永住ってこと?」
涼も質問した。植木は、
「いや、どこかの国に永住すれば、やがてそこも日本と同じになってしまう。この際、島でも買ってしまおうかと。」
と、植木が言った。
「え!?島を買う?無人島ですか?」
篤が驚いて言った。
「そんなお金、あるんですか?」
流石の流星も驚いて聞いた。
「そう、無人島だ。まあ、君たちならすぐに稼げる額なのだろうが、そうすると今までのようにチャリティーコンサートではなくなってしまう。だから、このSTEタワーを売って金を作ろうと思うんだ。」
と、植木が言った。
「俺は、どこにいてもSTEでいられるなら、いいですよ。」
と、碧央が言った。
「でも、テレビ出演が難しくなりますよね?リモート出演は出来るけど、他の出演者との交流が一切なくなりますよ?」
瑠偉がそう言うと、涼は、
「元々飲食店に行く機会もないけど……デリバリーとかも出来なくなるんですか?」
と言った。
「まあ……そうだな。うっかり、君たちがアフリカにいても問題なかったものだから、大丈夫だと思ってしまったが、永住となるとやはり問題があるか。」
植木が頭をかく。すると光輝が、
「僕は、やっぱり日本にいたいです。デリバリーとかの問題じゃなくて。僕たちのフェローは世界中にいるけど、やっぱり日本には一番たくさんいて、僕たちを支えてくれています。僕たちは日本人なのに、遠く離れてしまっては、日本にいるフェローが悲しむのではないかと思うんです。」
と、言った。
「うーん、確かにな。」
植木がうなる。
「今回の騒動で、政府も僕たちをまた逮捕しようとは思わないんじゃないですか?」
流星がそう言うと、
「あはは。誰も、もう政府にたてつくような歌は作らないようにしよう、とは言わないんだな。」
部屋にいてうろうろしていた内海が、突然笑ってそう言った。
「そりゃあ、そうですよ。そんな事をしたら、俺たちの存在意義がなくなってしまう。」
大樹がそう言い、涼も、
「そうですよ。ただのアイドルになってしまいますよ。そんな事になったら、賞味期限を切られた気がしてぞっとしますよ。」
と言った。
「賞味期限か、あははは。まあ、政府の事もそうなんだが、世界中から君たち目当てに人が殺到する事も問題なんだ。チケットの倍率があまりにも高くなってしまうし。」
植木が言った。
「普通、そうなればチケットの値段を上げるところなんだけどね。そうしたくはないだろ?」
内海も言った。
「そうか、チケット代が高ければ、申し込みも減るし、それだけこっちも儲かるってわけか。」
光輝が納得した、という風に言った。
「普通なら、そうするが、俺たちはしない。だろ?」
植木がもう一度聞くと、メンバーは皆、微笑みながら頷いた。
「そうしたら、オンラインライブがいいんじゃないですか?それなら、人数は無制限ですよね?」
瑠偉が提案した。
「常に、オンラインでやるって事か?観客を入れずに?」
植木が問うと、
「はい。」
と、瑠偉が答えた。すると、
「だが、そうすると歌番組の観覧とかに人が殺到するんじゃないか?それしか生でパフォーマンスを見られないとなると。」
と、大樹が言った。
「そっか。」
瑠偉が頷く。
「じゃあ、もっともっと、たくさんコンサートをやればいいんじゃないですか?そうしたら、倍率は下がるでしょ?」
碧央が言った。
「そうですよ、海外を回るというよりは、日本でたくさんコンサートをやる方がいいのかもしれませんよ。」
流星もそう言った。植木は、
「そうか、確かにたくさんコンサートをやるというのは、ありだが……疲れるぞ?」
と言った。すると碧央が、
「あ……そうかな。」
自信なさげに言った。
「いいじゃないか、移動がそれほどなければ、きつくないかもよ?それに、練習で散々疲れているんだからさ、本番をたくさんやっても同じ事だよ。」
しかし涼はそんな事を言う。瑠偉は、
「そうかなぁ。」
と、首を傾げた。すると大樹が、
「回数をたくさんやるなら、1回の公演を短めにすればいいんじゃないか?そうすれば疲れないよ。」
と言った。瑠偉は、
「そうだよね、いつもは20曲とかぶっ通しでやるから疲れるけど、10曲で一度休憩が入れば、楽だよね。次の10曲も同じものをやるわけだし。」
と言った。しかし篤は、
「でもさ、日本でばかりやって、海外にあまり行かなくなったのでは、時代の流れに逆行していないか?俺たちはワールドワイドなスターなのに、また国内に閉じこもるのか?」
と、疑問を呈した。涼も、
「たまには、ヨーロッパとかアメリカとかにも行くべきだよね。」
と言う。光輝は、
「アフリカだって、中東だって、行くべきだよ。」
と言った。植木は、
「うーん、難しい問題だな。また少し考えてみよう。」
と言った。