「るいぃ、こんな時にあれなんだけど。」
光輝が瑠偉の部屋を訪ね、遠慮がちに相談を持ち掛けた。
「えっ?まだしてないの?」
「しー、大きい声出すなよ。」
「ああ、ごめんなさい。」
瑠偉は口を手で覆った。
「瑠偉と碧央は、その、初めてしたのって、どんなタイミングで?」
「俺たちは……告白と同時って言うか……。」
「そ、そうなの……?まあ、そうか。お前たちは既に寸前まで行ってたからなあ。」
「寸前までって。」
瑠偉は苦笑いした。以前から、ステージやカメラの前で、キスする真似をしていた碧央と瑠偉。だから、本当にしてみないと本気度が分からなかったと言える。
「ねえ、どっちから告白したの?」
急に、嬉しそうに光輝がそう聞いた。
「えっと、碧央くんから。」
「へえ。告白されて、びっくりした?」
「そりゃあ、もう。ずっと俺の片思いだと思っていたから。」
「それで、好きだって言われて、キスされたわけ?」
「いや、キスしたのは俺の方からで。ああ、いろいろあったの!キスしていいかって聞かれて、碧央くんが望むならどうぞって言ったら、碧央くんが振られたって言ってしなかったから、そうじゃないよっていう意味で、その……。」
瑠偉はアタフタしながらそう言った。
「そうなんだ、瑠偉からしたんだ。尊敬するな……。両想いって分かっていても、なかなかできないよ。」
光輝が嘆息しながらそう言う。
「俺たちの場合、命の危機に直面していたから。今しなかったら、後悔するって。」
「命の危機?あ、あの無人島の時?」
「そう。もう死ぬかもしれないって思ったから、碧央くんも告白してくれたし。あの事件がなかったら、どうなっていたんだろう。でもさ、明日どうなるか分からないのって、いつだって同じだよね。社長だって、何も悪い事してないのにいきなり逮捕されたしさ。俺たちだって、明日も一緒にいられるかどうかなんて、本当は分からないじゃん。だから光輝くんも、勇気を出して。」
「瑠偉……。そうだな。明日もチャンスがあるなんて、誰にも分からないよな。だから、今日勝負をかけないと。」
「光輝くん、頑張って!」
「おう!……って、どうやって?うわぁ、もう緊張してきちゃったよ。ダメ、僕からなんてできないよ。」
光輝は両手で胸を押さえた。
「ちょっと、練習させて。」
光輝はそう言うと、瑠偉の両肩に手を置いた。
「え?練習?」
光輝はじっと瑠偉の唇を見つめた。
「ちょっと、光輝くん?ダメだよ?わあ、ちょっと!」
光輝が顔を近づけてきたので、瑠偉が慌てて逃げようとすると、ドアがバンと開いた。
「こらぁ、光輝!何してんじゃ!」
碧央の登場である。
「あははは、冗談だよぅ、冗談。瑠偉、いろいろありがとな。」
光輝はそう言って、去って行った。
「瑠偉、大丈夫か?!光輝に何されたんだ?!」
碧央が血相変えて瑠偉の両腕を掴んだ。
「え?えっと、何もされてないよ。うん。」
瑠偉が目を泳がす。碧央がじっと瑠偉の顔を見るので、瑠偉は泳がせていた目を碧央の目に戻した。
「本当だよ。光輝くんがね、まだ流星くんとキスした事がないんだって。それで、練習させてって、ああ、いやいや、冗談だったみたいで、未遂だよ。」
途中、碧央の目つきが変わったので、瑠偉は慌てて冗談だと付け加えた。
「あんのやろ、俺が入って来なかったらどうしていたか。瑠偉、光輝にあんまり気を許すなよ。」
「でも、光輝くんは流星くんの事が好きなんだよ?それなのに、俺に何かするなんて事、ないでしょ?光輝くんの事、信じてないの?」
「あのな、普通は他に好きなやつがいれば大丈夫だと思うだろうが、お前は格別に可愛いんだからさ、お前に隙があれば誰だって何かしちゃうんだよ。」
「いやあ、そんな事はないと思うけど?少なくとも、うちのメンバーは何もしないと思うよ?」
「とにかく、誰であっても気を許すな。分かったか?」
「……はい。分かりました。」
「よし。じゃあ、ご褒美。」
碧央は瑠偉にキスをした。結局、自分がしたいのである。
 その夜、まだ光輝が決意を実行する前に、STEは逮捕されたのである。