成田空港には大勢の人が詰めかけ、STEが現れるのを今か今かと待ち構えていた。7人のメンバーが姿を現した途端、大きな歓声とフラッシュが飛び交う。
「お帰りなさーい!」
「キャー!!」
報道陣も多数詰め掛け、各局のテレビ中継がなされた。ちょうど午後のワイドショー番組の時間帯で、この様子を中継したあるテレビ局では、キャスターと芸能評論家の間で次のような会話がなされた。
「STEがやっと帰ってきましたねー。」
「いやー、帰ってきましたねー。フェローのみなさんも待ちに待ったと言ったところでしょうね。」
「彼らをご覧になって、いかがですか?先生。」
「そうですね。まず、7人ともすごく日焼けしましたね。赤道付近の国にずっといたからでしょうかね。」
「そうですね、かっこいいですよね。あれじゃないですか、植樹作業などで日中外にいる事が多かったのではないでしょうか。」
「そうでしょうね。それと、彼らが最近作った曲にも変化が感じられますね。」
「と言いますと?」
「初期の頃の、尖った感じが取れてきたように思われますね。アフリカで作った楽曲は、何かを攻撃する内容ではなく、地球のすばらしさを歌ったものが多いです。「Wonder(ワンダー、不思議)」とか「Source(ソース、起源)」なんかがまさにそうですね。」
「なるほど。」
すると男性タレントが言った。
「Sourceいいですよねー。僕らはこの大地から生まれたんだっていうサビの部分がすごく素敵なんですよ。ダンスもエレガントな感じで、また新しいSTEを見た気がしますね。」
「そうですよね。彼らは毎日のように動画を配信していました。テレビ番組にもよく出演していましたね。」
キャスターが言うと、その男性タレントは、
「そうなんですよね。だから、ずっと遠くにいたという感覚は正直ないですね。今や、そう簡単にコンサートに行ったり、握手会に参加したりという事が難しくなっていますからね。何しろ人気がありすぎて、チケットの倍率が高すぎるものですから。」
と言った。芸能評論家も、
「そうなんですよ。日本でイベントをしても、海外からフェロー達が押しかけてきて、倍率が100倍くらいになってしまうんです。その事と、今回日本を離れた事と、もしかしたら関係があるのかもしれませんね。」
と言った。
「そうなんですか?100倍とは驚きですね。そういうシステムを変えようとして、ボランティアの旅に出たと?」
キャスターが尋ねると、芸能評論家は言った。
「一部のフェローから、不満の声が上がっていたのは事実です。ただ、どこへ向けていいのか分からない不満ですから、いっそコンサートや握手会を辞めてしまえば、という手段に出たとしてもおかしくありませんよ。」
キャスターはそれを受け、
「確かに。」
と言った。
帰国したSTEは、やっと我が家であるSTEタワーに帰って来た。
「あー、我が家だあ!」
「やっぱ落ち着くなあ。」
「うんうん。そうだねー。」
涼、篤、光輝がそう言い、メンバーは共同リビングのソファに倒れ込むようにして座った。
「みんな、お疲れさん。これからしばらくは、またアルバム作りに専念してもらおうか。1か月後くらいに完成させて、その後2カ月くらいで発売というところかな。」
社長の植木が言った。
「はい、了解です。」
代表して流星が答える。
「それで、楽曲を作る上でちょっと参考にしてもらいたい事があるんだが。」
と、植木が言った。流星が、
「何ですか?」
と言うと、植木は説明を始めた。
「うん。ここのところ、世界でも日本でも、だいぶ脱炭素社会を目指そうという意識が高まっているとは思うんだ。二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする、と政府も宣言している。だが、これを見て欲しい。」
植木は切り取った新聞記事を広げた。
「日本の二酸化炭素排出量の4割が、製造業によるものだ。物を作る際に大量の電力を消費するそうで、ここを何とかしないと排出量ゼロにはとてもできないのだ。今は二酸化炭素を排出しない発電方法などが開発されているが、企業がそういったものを採用する場合、今までよりもコストがかかり、国際競争力が下がる懸念がある。つまり、企業努力だけでは、なかなか脱炭素社会実現は難しいのが現状だ。そこで、国によるエネルギー政策が必要だ、というのがこの記事に書いてある。」
「エネルギー政策って、例えばどういう?」
瑠偉が質問した。
「まあ、要するに電力を安くしてほしいという事だろうな。今は、日本の発電は火力発電の割合が高い。だが、これは二酸化炭素排出量が多いものだ。もっとクリーンエネルギーの割合を多くし、そういった電力を製造業界が今以上のコストをかけずに手に入れられるようになる事が必要なんだ。」
植木が説明した。瑠偉は、
「はあ。分かったような、分からないような?」
と言うと、流星が、
「それを、俺たちの歌の歌詞に盛り込めということですか?」
と言った。植木は、
「そうなんだが、難しいだろうな。楽曲としてかっこよく、楽しくしなくてはならないし、無理にとは言わないが、少し頭の片隅にでも入れておいてくれ。」
と言った。
「分かりました。考えてみます。」
流星が躊躇なくそう言ったので、瑠偉は羨望の眼差しを流星に向けた。つまり、(流星くん、すごーい!)と目が訴えていた。
「お帰りなさーい!」
「キャー!!」
報道陣も多数詰め掛け、各局のテレビ中継がなされた。ちょうど午後のワイドショー番組の時間帯で、この様子を中継したあるテレビ局では、キャスターと芸能評論家の間で次のような会話がなされた。
「STEがやっと帰ってきましたねー。」
「いやー、帰ってきましたねー。フェローのみなさんも待ちに待ったと言ったところでしょうね。」
「彼らをご覧になって、いかがですか?先生。」
「そうですね。まず、7人ともすごく日焼けしましたね。赤道付近の国にずっといたからでしょうかね。」
「そうですね、かっこいいですよね。あれじゃないですか、植樹作業などで日中外にいる事が多かったのではないでしょうか。」
「そうでしょうね。それと、彼らが最近作った曲にも変化が感じられますね。」
「と言いますと?」
「初期の頃の、尖った感じが取れてきたように思われますね。アフリカで作った楽曲は、何かを攻撃する内容ではなく、地球のすばらしさを歌ったものが多いです。「Wonder(ワンダー、不思議)」とか「Source(ソース、起源)」なんかがまさにそうですね。」
「なるほど。」
すると男性タレントが言った。
「Sourceいいですよねー。僕らはこの大地から生まれたんだっていうサビの部分がすごく素敵なんですよ。ダンスもエレガントな感じで、また新しいSTEを見た気がしますね。」
「そうですよね。彼らは毎日のように動画を配信していました。テレビ番組にもよく出演していましたね。」
キャスターが言うと、その男性タレントは、
「そうなんですよね。だから、ずっと遠くにいたという感覚は正直ないですね。今や、そう簡単にコンサートに行ったり、握手会に参加したりという事が難しくなっていますからね。何しろ人気がありすぎて、チケットの倍率が高すぎるものですから。」
と言った。芸能評論家も、
「そうなんですよ。日本でイベントをしても、海外からフェロー達が押しかけてきて、倍率が100倍くらいになってしまうんです。その事と、今回日本を離れた事と、もしかしたら関係があるのかもしれませんね。」
と言った。
「そうなんですか?100倍とは驚きですね。そういうシステムを変えようとして、ボランティアの旅に出たと?」
キャスターが尋ねると、芸能評論家は言った。
「一部のフェローから、不満の声が上がっていたのは事実です。ただ、どこへ向けていいのか分からない不満ですから、いっそコンサートや握手会を辞めてしまえば、という手段に出たとしてもおかしくありませんよ。」
キャスターはそれを受け、
「確かに。」
と言った。
帰国したSTEは、やっと我が家であるSTEタワーに帰って来た。
「あー、我が家だあ!」
「やっぱ落ち着くなあ。」
「うんうん。そうだねー。」
涼、篤、光輝がそう言い、メンバーは共同リビングのソファに倒れ込むようにして座った。
「みんな、お疲れさん。これからしばらくは、またアルバム作りに専念してもらおうか。1か月後くらいに完成させて、その後2カ月くらいで発売というところかな。」
社長の植木が言った。
「はい、了解です。」
代表して流星が答える。
「それで、楽曲を作る上でちょっと参考にしてもらいたい事があるんだが。」
と、植木が言った。流星が、
「何ですか?」
と言うと、植木は説明を始めた。
「うん。ここのところ、世界でも日本でも、だいぶ脱炭素社会を目指そうという意識が高まっているとは思うんだ。二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする、と政府も宣言している。だが、これを見て欲しい。」
植木は切り取った新聞記事を広げた。
「日本の二酸化炭素排出量の4割が、製造業によるものだ。物を作る際に大量の電力を消費するそうで、ここを何とかしないと排出量ゼロにはとてもできないのだ。今は二酸化炭素を排出しない発電方法などが開発されているが、企業がそういったものを採用する場合、今までよりもコストがかかり、国際競争力が下がる懸念がある。つまり、企業努力だけでは、なかなか脱炭素社会実現は難しいのが現状だ。そこで、国によるエネルギー政策が必要だ、というのがこの記事に書いてある。」
「エネルギー政策って、例えばどういう?」
瑠偉が質問した。
「まあ、要するに電力を安くしてほしいという事だろうな。今は、日本の発電は火力発電の割合が高い。だが、これは二酸化炭素排出量が多いものだ。もっとクリーンエネルギーの割合を多くし、そういった電力を製造業界が今以上のコストをかけずに手に入れられるようになる事が必要なんだ。」
植木が説明した。瑠偉は、
「はあ。分かったような、分からないような?」
と言うと、流星が、
「それを、俺たちの歌の歌詞に盛り込めということですか?」
と言った。植木は、
「そうなんだが、難しいだろうな。楽曲としてかっこよく、楽しくしなくてはならないし、無理にとは言わないが、少し頭の片隅にでも入れておいてくれ。」
と言った。
「分かりました。考えてみます。」
流星が躊躇なくそう言ったので、瑠偉は羨望の眼差しを流星に向けた。つまり、(流星くん、すごーい!)と目が訴えていた。



