流星が、シャワーを浴びて出て来た。部屋では光輝が待っていた。
「大丈夫?痛くなかった?」
光輝が問いかけた。
「ああ。背中は水で流しただけだから。」
流星が答える。
「じゃあ、座って。」
流星はベッドに座り、光輝の方へ背中を向けた。
「うわ。」
背中のやけどを見て、光輝は顔をしかめた。まずはタオルでそっと拭き、それから薬を塗った。その上にラップを乗せ、包帯を巻く。包帯を巻くとき、胸の前で包帯を右手から左手に持ち替えるので、いちいち後ろから抱き着くような格好になる。
「ねえ、どうしてこんな無茶したの?」
光輝が聞いた。
「え?そりゃあ、光輝に怪我させたくなかったから。」
流星が答える。
「でも、流星くんが怪我したらダメじゃん。」
「さっきも言ったけど、俺が多少怪我しても損失はほとんどない。でもお前が怪我して踊れなくなると、STEとしても損失が大きいだろ。」
「そんな事ないよ。もし、流星くんが頭に怪我していたら、僕たちにとって相当の損失だよ。」
流星の頭脳がないと、大変困る。英語をしゃべってくれる人がいなくなるだけでも辛い。
「ああ……まあ、そうかな?」
流星にも自覚はある。
「だから、STEの損失がどうとかっていうのは、関係ないでしょ。」
光輝は包帯の終わりをテープで留めた。
「ねえ、流星くんは、僕の事が好き、なんだよね?」
「え……。」
光輝は、両手を流星の前へ持って行き、背中から抱きしめた。
「こうすると、胸がぎゅっとなる?」
流星はちらっと振り返ろうとしたが、そう聞かれて、動きを止めた。
「瑠偉がね。」
光輝が言った。
「え?瑠偉?」
流星が聞き返す。
「うん。瑠偉が言ってたんだ。近くにいると、胸がぎゅっとしたりキュンとしたりするのが恋、なんだって。」
「……。」
光輝の言葉に、流星は黙った。
「僕、今すごく、ぎゅっとなってる。」
「光輝?」
「流星くんは?」
流星はごくりと唾を飲み込んだ。
「ああ、ぎゅっとしてるよ。痛いくらいに。」
そう言って、流星は目の前にある光輝の手に自分の手を重ねた。そうしてしばらくの間、2人ともじっとしていた。ただ、お互いの呼吸の音だけが聞こえる。
 流星が体を動かしたので、光輝は手を放した。流星は体を反転させ、光輝と向き合った。
「ずっと前から、光輝の事を考えると、胸が痛い。」
「痛いの?」
光輝は流星の心臓の辺りに触れた。そして、そのまま腕を背中に回し、今度は前から抱きついた。
「こうしたら、痛いの治るかな?」
「もっと痛くなるよ。でも、幸せな痛みだ。」
流星は、腕を光輝の背中に回し、ぎゅっうと抱きしめた。
「光輝、好きだよ。」
「僕も、流星くんの事が好きだよ。本当だ、痛いけど、幸せな痛みだね。」
2人は、更にぎゅうっと力を込めて抱きしめ合った。恐らく、流星は背中も相当痛かったに違いない。

 流星の部屋の外では、瑠偉がジーっとドアを見つめていた。
「お前、こんな所にいたのか。何してるんだ?」
瑠偉がいつの間にかいなくなったので、碧央は探しに来たのだ。
「しっ!」
瑠偉が人差し指を口に当てた。碧央が首を傾げると、瑠偉は碧央の腕を引っ張って、少し離れた所へ連れて行った。
「今、光輝くんが中にいるだろ?どうなったかなと思って。」
「どうなったか?ああ。」
マダガスカルの出発前夜の誤解を解くため、瑠偉は光輝が流星の事で悩んでいる話を碧央にしていた。
「だからって、そんなに見張ってなくても……。あ、お前まさか。」
碧央は目を吊り上げた。
「え?なんで怒るの?」
「まさか、流星くんを取られたくないとか、思っているんじゃないだろうな。」
「はあ?何言ってんの?」
「だってお前、流星くんの事が好きだろ。」
「ああ、好きだよ!すっごく好きだよ!」
瑠偉はムキになって言った。
「くーっ、お前は、もう!」
「ふん!」
瑠偉がぷいっと顔を背け、スタスタと歩いて行くので、
「ちょ、ちょっと待て、瑠偉!」
碧央は瑠偉の腕を掴んだ。だが、瑠偉は碧央を睨みつける。
「あ……そんなに怒るなよ。な、俺の部屋に来いよ。」
「やだ。」
「るいぃ、瑠偉ちゃーん。」
碧央が瑠偉の腕を両手でぶんぶん振っているところへ、光輝が流星の部屋から出て来た。
「何やってんの?お前ら。」
「あ、光輝くん!あの……どうだった?」
瑠偉が遠慮がちに聞く。すると、光輝はボッと顔を赤くした。それを見た碧央と瑠偉は顔を見合わせた。
「もしかして……2人は?」
瑠偉がそう言うと、
「いや、別に。ただ、ちょっと、その。ああ、もう恥ずかしいよぅ!」
光輝は顔を両手で隠した。
「わーい、おめでとう!光輝くん。」
瑠偉は光輝の背中をバンバン叩いた。碧央はその様子を見て、ふふふっと笑った。