そうして、マダガスカルを出発する2日前に、引っ越し作業が始まった。意外と荷物は多い。楽器やらパソコンその他周辺機器やら、衣装・小道具まで様々。ここから動画配信をしていたので、それなりに物が必要だったのである。アフリカに来てから買い求めた物も多少あり、来る時よりも荷物が増えている。
「ああ、これじゃ入らないよー。」
「あははは、光輝くん、それ無理だよー!」
荷物整理をしている光輝を見て、瑠偉が笑った。
「どうしよう。他に鞄ない?」
光輝がそう言うかと思えば、
「これ、俺の物じゃないぞ。誰のだ?」
大樹が何かをつまみ上げて首をかしげる。すると涼が言った。
「あ、それ俺の俺の!うそ、それ入らないよ……。」
バタバタである。
「うわっ。」
「おっと。光輝、大丈夫か?」
光輝が高い所の物を取ろうとし、よろけた所を流星が抱き留めた。
「ありがと。あっ、流星くん……。」
抱き留めてくれたのが流星だと分かって、光輝はカッと顔が熱くなった。そして、思わず流星の腕を振り払ってしまった。
「あ、ごめん。」
流星はそう言うと、すぐに立ち去った。
「あ……流星くんが謝ることないのに。」
光輝は独り言を言った。親切にしてくれたのに、自分は何て事をしたのだ、と自己嫌悪に陥った。
何とか荷物も片付き、明日の朝に出発を控えた前の晩、光輝は瑠偉の部屋を訪れた。
「瑠偉、ちょっと話してもいい?」
「いいよ。どうしたの?」
光輝は瑠偉の部屋に入り、ベッドに並んで腰かけた。
「瑠偉はさ、流星くんの事、どう思う?」
「流星くんの事?そりゃあ、頭が良くて優しくて、好きだよ。」
「そうだろうね。それって、碧央の事を好きなのとは、違う好きなの?」
「え!?どどどど、どういうこと?」
「隠さなくてもいいよ。キスしているとこ見ちゃったんだからな。」
「あ……あの時、やっぱり見てたんだ……。」
瑠偉は両手で顔を覆った。
「恥ずかしがるなよ。ねえ、碧央の事を好きなのは、他の人の好きとはどう違うの?」
「それは……。碧央くんの事を考えたり、碧央くんが近くに来たりすると、胸の辺りがこう、ぎゅっとなるんだ。胸が震えるっていうか、キュンってするっていうか。」
「そうなんだ。そうか。」
「もしかして……光輝くん、流星くんの事が好きになったの?」
「あ、いや、その……分からないんだ。篤くんが変な事言うからさ、変に意識しちゃっているだけかもしれないし。」
「変な事って?」
「流星くんが、僕の事を好き、だとか何とか。」
「ああ、それはそうだね。」
「やっぱり?」
「光輝くん、最近まで気づいてなかったの?」
「うん、全然。言われるまで全く意識してなかったよ。」
「そっか。でも、光輝くんは篤くんの事が好きなんじゃないの?」
「え!?」
「気づくよ。」
「そっかぁ、そうだよね。でも、篤くんは瑠偉のことが好きだから。」
「えっ……うそ!」
「気づいてなかったの?それこそ信じらんないよ。まあ、そういう事なんだよね。自分の事は気づきにくい。ああ、篤くんの事は大丈夫だよ。碧央と瑠偉がキスしてるとこ、篤くんも見たからね。」
「そう……なんだ。」
安心していいのか、どうなのか、瑠偉は複雑な気分だった。
「それで?光輝くんは誰の事が好きなの?篤くん?それとも流星くん?」
「それが分かんないから相談しに来たんだよ。篤くんはイケメンだし、甘えたいって思うけど、瑠偉の言う、キュンっていうのは別にないような気がするし。流星くんは、特別好きとか思ってなかったけど、最近、近づくとドキドキしちゃうんだ。でも、それは変に意識しているからだって思っていたんだ。でも、今の瑠偉の話を聞いたら、このドキドキがつまりは……。」
「流星くんを好きになっちゃったのかもしれない?」
「どうなんだろう?ああ、瑠偉、分からないよー。」
光輝は混乱し、瑠偉の事を抱きしめた。瑠偉は光輝の背中を優しく撫でた。その時、ドアが突然開いた。
「あ?お前ら、何やってんだよ!」
「あー、碧央くん誤解だよ!」
あわや、碧央が光輝に掴みかからんとした時、
「どうしたんだ?」
部屋の入口に流星が現れた。中を覗いた流星は、光輝が瑠偉に抱きしめられているのを見た。そして、固まっている。
「流星くん、誤解しないで!」
瑠偉は慌てて言った。お騒がせな光輝は、浮かぬ顔のまま、のっそりと立ち上がると、静かに部屋に戻って行った。流星とすれ違う時、ちらっと眼を見交わしたが、言葉は交わさなかった。
翌朝、いよいよ出発という時、内海が記念写真を撮ろうと言ってスマホを構えた。
「はい、集まってー。」
メンバー7人は、前に3人が屈み、後ろに4人が立って並んだ。
「はい、撮るよー。セイチーズ!」
アイドルである7人は、それぞれいい顔でニッコリ。後ろに立っていた光輝は、目の前のメンバーの首に腕を絡めた。光輝が誰にでもよくやるポーズである。写真を撮り終えた時、その腕を絡めた相手を改めて見た光輝は、胸がドキンとした。流星だったのだ。
「ん?光輝、どうした?」
後ろで固まっていた光輝に、流星が振り返ってそう声をかけた。
「あ、うううん、何でもない。」
光輝がぎこちなく動き出そうとした時、流星が光輝の腕を掴んだ。
「光輝、もしかして、俺の事避けてる?」
「え?そ、そんな事ないよ。」
「そうか?もしかして、俺の事が……迷惑なのか?」
みんなが出発しようとドタバタしている中で、2人だけが止まっていた。少しの間、2人は見つめ合った。
「迷惑なんて、全然違うよ。」
光輝が首を振りながら言った。
「じゃあ、なんで?最近の光輝、おかしいよ。俺が近づくと逃げていくじゃないか。」
「そんな、そんな事ないよ。」
「あるよ。俺の事、嫌いなのか?」
「嫌いじゃないよ!流星くんの事は好きだよ。」
「え……本当に?」
「うん。だから、その。」
「おーい、お前たち行くぞー!」
玄関の所で、内海が流星と光輝の方へ声をかけた。
「はーい。」
流星は返事をし、光輝の腕を放した。この家ともお別れだ。メンバーやスタッフは、玄関を出て、改めて家を振り返り、感慨に耽ったのであった。
「ああ、これじゃ入らないよー。」
「あははは、光輝くん、それ無理だよー!」
荷物整理をしている光輝を見て、瑠偉が笑った。
「どうしよう。他に鞄ない?」
光輝がそう言うかと思えば、
「これ、俺の物じゃないぞ。誰のだ?」
大樹が何かをつまみ上げて首をかしげる。すると涼が言った。
「あ、それ俺の俺の!うそ、それ入らないよ……。」
バタバタである。
「うわっ。」
「おっと。光輝、大丈夫か?」
光輝が高い所の物を取ろうとし、よろけた所を流星が抱き留めた。
「ありがと。あっ、流星くん……。」
抱き留めてくれたのが流星だと分かって、光輝はカッと顔が熱くなった。そして、思わず流星の腕を振り払ってしまった。
「あ、ごめん。」
流星はそう言うと、すぐに立ち去った。
「あ……流星くんが謝ることないのに。」
光輝は独り言を言った。親切にしてくれたのに、自分は何て事をしたのだ、と自己嫌悪に陥った。
何とか荷物も片付き、明日の朝に出発を控えた前の晩、光輝は瑠偉の部屋を訪れた。
「瑠偉、ちょっと話してもいい?」
「いいよ。どうしたの?」
光輝は瑠偉の部屋に入り、ベッドに並んで腰かけた。
「瑠偉はさ、流星くんの事、どう思う?」
「流星くんの事?そりゃあ、頭が良くて優しくて、好きだよ。」
「そうだろうね。それって、碧央の事を好きなのとは、違う好きなの?」
「え!?どどどど、どういうこと?」
「隠さなくてもいいよ。キスしているとこ見ちゃったんだからな。」
「あ……あの時、やっぱり見てたんだ……。」
瑠偉は両手で顔を覆った。
「恥ずかしがるなよ。ねえ、碧央の事を好きなのは、他の人の好きとはどう違うの?」
「それは……。碧央くんの事を考えたり、碧央くんが近くに来たりすると、胸の辺りがこう、ぎゅっとなるんだ。胸が震えるっていうか、キュンってするっていうか。」
「そうなんだ。そうか。」
「もしかして……光輝くん、流星くんの事が好きになったの?」
「あ、いや、その……分からないんだ。篤くんが変な事言うからさ、変に意識しちゃっているだけかもしれないし。」
「変な事って?」
「流星くんが、僕の事を好き、だとか何とか。」
「ああ、それはそうだね。」
「やっぱり?」
「光輝くん、最近まで気づいてなかったの?」
「うん、全然。言われるまで全く意識してなかったよ。」
「そっか。でも、光輝くんは篤くんの事が好きなんじゃないの?」
「え!?」
「気づくよ。」
「そっかぁ、そうだよね。でも、篤くんは瑠偉のことが好きだから。」
「えっ……うそ!」
「気づいてなかったの?それこそ信じらんないよ。まあ、そういう事なんだよね。自分の事は気づきにくい。ああ、篤くんの事は大丈夫だよ。碧央と瑠偉がキスしてるとこ、篤くんも見たからね。」
「そう……なんだ。」
安心していいのか、どうなのか、瑠偉は複雑な気分だった。
「それで?光輝くんは誰の事が好きなの?篤くん?それとも流星くん?」
「それが分かんないから相談しに来たんだよ。篤くんはイケメンだし、甘えたいって思うけど、瑠偉の言う、キュンっていうのは別にないような気がするし。流星くんは、特別好きとか思ってなかったけど、最近、近づくとドキドキしちゃうんだ。でも、それは変に意識しているからだって思っていたんだ。でも、今の瑠偉の話を聞いたら、このドキドキがつまりは……。」
「流星くんを好きになっちゃったのかもしれない?」
「どうなんだろう?ああ、瑠偉、分からないよー。」
光輝は混乱し、瑠偉の事を抱きしめた。瑠偉は光輝の背中を優しく撫でた。その時、ドアが突然開いた。
「あ?お前ら、何やってんだよ!」
「あー、碧央くん誤解だよ!」
あわや、碧央が光輝に掴みかからんとした時、
「どうしたんだ?」
部屋の入口に流星が現れた。中を覗いた流星は、光輝が瑠偉に抱きしめられているのを見た。そして、固まっている。
「流星くん、誤解しないで!」
瑠偉は慌てて言った。お騒がせな光輝は、浮かぬ顔のまま、のっそりと立ち上がると、静かに部屋に戻って行った。流星とすれ違う時、ちらっと眼を見交わしたが、言葉は交わさなかった。
翌朝、いよいよ出発という時、内海が記念写真を撮ろうと言ってスマホを構えた。
「はい、集まってー。」
メンバー7人は、前に3人が屈み、後ろに4人が立って並んだ。
「はい、撮るよー。セイチーズ!」
アイドルである7人は、それぞれいい顔でニッコリ。後ろに立っていた光輝は、目の前のメンバーの首に腕を絡めた。光輝が誰にでもよくやるポーズである。写真を撮り終えた時、その腕を絡めた相手を改めて見た光輝は、胸がドキンとした。流星だったのだ。
「ん?光輝、どうした?」
後ろで固まっていた光輝に、流星が振り返ってそう声をかけた。
「あ、うううん、何でもない。」
光輝がぎこちなく動き出そうとした時、流星が光輝の腕を掴んだ。
「光輝、もしかして、俺の事避けてる?」
「え?そ、そんな事ないよ。」
「そうか?もしかして、俺の事が……迷惑なのか?」
みんなが出発しようとドタバタしている中で、2人だけが止まっていた。少しの間、2人は見つめ合った。
「迷惑なんて、全然違うよ。」
光輝が首を振りながら言った。
「じゃあ、なんで?最近の光輝、おかしいよ。俺が近づくと逃げていくじゃないか。」
「そんな、そんな事ないよ。」
「あるよ。俺の事、嫌いなのか?」
「嫌いじゃないよ!流星くんの事は好きだよ。」
「え……本当に?」
「うん。だから、その。」
「おーい、お前たち行くぞー!」
玄関の所で、内海が流星と光輝の方へ声をかけた。
「はーい。」
流星は返事をし、光輝の腕を放した。この家ともお別れだ。メンバーやスタッフは、玄関を出て、改めて家を振り返り、感慨に耽ったのであった。