アルバム作成中も、東京でのテレビ出演や雑誌の取材など、露出系の仕事もしていた。歌番組に出演する時には、女性アイドルや他の歌手の人たちとも共演する。こういう時に、瑠偉はいつもハラハラする。
 碧央は、とにかく女性にモテる。碧央は世界一のハンサム顔と言われるが、確かにすましているとハンサムこの上ない。だが、笑うと少年のように可愛い。このギャップが母性本能をくすぐるらしい。雑誌などにそう書いてある。
 碧央にその気がないのは分かっているのだが、ひとたび女性のいる現場に行くと、あっちからもこっちからも熱い視線が送られてくる。場合によっては話しかけてくる。碧央は、話しかけられれば無邪気に応じる。それが、相手を勘違いさせやしないか、と瑠偉をハラハラさせるのである。
「碧央さーん、こんにちは。もう足は大丈夫ですかぁ?」
ある女性アイドルが声を掛けてきた。
「こんにちは。うん、もうほとんど痛くないよ。今日はちゃんと踊るから、見ててね。」
碧央は無邪気に答える。
「わぁ、良かったですぅ。ダンス楽しみにしてまーす。」
瑠偉は、横を向いてハッと短く息を吐く。ああ、ぶりっ子なしゃべり方、うんざり、の意味である。
 そして、ある大物女性歌手がやって来た。
「STE諸君、おはよう!」
「おはようございます!」
メンバー皆で挨拶をした。
「うーん、今日もいい男だねえ。」
大物女性歌手は、碧央の顔に手を当てて、そう言った。大物には、逆らえない。当の本人である碧央は、ニヤっと笑っている。ああ、そんな顔したら、ますますかっこいいじゃないか!と瑠偉の内心は穏やかでない。
「ちょっとぉ、終わったら一杯飲みにいかない?」
ほらぁ、来たよぉ、と瑠偉は身構える。碧央くん、ダメだよ、ダメだよ、と念を送る。
「いいっすねえ。」
がーん、と何かが瑠偉の頭を打つ。女性と飲みに行って、いろいろ困って、事務所のスタッフが迎えに行った事があるのだ。だが、それは瑠偉と両想いになる前の話。
「うぉっほん。」
瑠偉は横で咳ばらいをし、肘で碧央をつついた。
「あ……そうでした、今日は先約があって。また今度で。すいません。」
碧央は頭の後ろに手をやって、大物歌手にそう言った。瑠偉は胸を撫で下ろす。そして、碧央の目を一瞬睨んでみせた。そして、耳に口を寄せ、
「女と飲みになんか行ったら、許さないからな。」
と言った。
「あれ?瑠偉くん、言葉遣いがいつもと違うんじゃない?あはは、ねえ、瑠偉ぃ。」
瑠偉がどんどん行ってしまうので、碧央は瑠偉を追いかけた。

 一方、歌番組以外では、共演者よりもスタッフの女性に囲まれる碧央。芸能人よりも露骨である。そして、碧央は自分のファンには決して冷たくしたりしない。
「そりゃあ、モテるわけだよなあ。」
と、瑠偉がため息をつくのも無理はない。あの顔で優しくされたら、惚れない方がおかしい、と瑠偉は思っている。
ある女性スタッフが来て、
「あの、サインください!」
と言うと碧央は、
「いいよ。――はい。」
そして別の女性スタッフが来て、
「碧央さん、あの、握手してください。」
と言えば、碧央は、
「はい。」
握手をしてあげる。また別の女性スタッフが来て、
「碧央さん、あの、ハグしてください!」
と言えば、碧央は、
「はい。」
瑠偉はその声を少し離れたところで聞いて、急いで振り返った。
「あー!」
ダメ、と喉元まで出かかって、飲み込んだ。涙の味がした。碧央は優しい。ハグしてくれと言われたら、してあげるのだ。
「なんで、どうして?そういうことは断るっていうか、はぐらかすとか、できるでしょ。」
戻って来た碧央に、小声でついそう言ってしまう瑠偉。
「んー?」
それこそ、はぐらかす碧央。
「あー、もう!」
「どうした?瑠偉。」
篤が瑠偉のところへやってきた。
「篤くーん、碧央くんがひどいんだよー。」
そう言うと、瑠偉は篤に抱きついた。
「はぅ!(碧央の声)」
「え?何なに?どうしたんだよ。」
篤は明らかに嬉しそうである。
「瑠偉、何してんだよ!」
「碧央くんだって、ハグしてたじゃん。」
「だからって、お前が、よりによって篤くんにする事ないだろ!」
「何なに?よりによって俺って、何?」
篤は訳が分かっていないのだが、笑いが止まらない。
「こら、離れろ。」
碧央が瑠偉を篤からはがしにかかる。だが、瑠偉は篤にしがみついて離れない。
「えー、何なにー?」
笑いの止まらない篤である。