「ねえ、新しい歌のテーマ、考えたんだけど。」
リビングに何となくみんなが集まっている時に、碧央が言った。
「この世界で、一番無くした方がいい物って、銃だと思うんだ。」
碧央の発言を受け、全員がハッとして碧央を見た。
「核兵器や生物兵器ももちろんだけどさ、俺は、銃をこの世から無くしたい。難しいかもしれないけど、今の俺たちなら、少しは何か変えられるんじゃないかな。」
碧央がそう言うと、流星がおもむろに口を開いた。
「今の碧央が言うと、説得力があるな。確かに、アメリカなんかでは銃規制がほとんどなくて、誰でも銃を持てる。相手が銃を持っているから、自分も持つ。相手が撃つかもしれないから、自分も撃つ……銃が無ければ起きない事件が世界中で尽きない。」
「俺、少し歌詞を書いてみたんだ。みんなも参加してよ。」
碧央が言う。
「よし、銃をこの世から無くそうぜ!」
大樹がそう言い、メンバー全員が呼応した。
「おぅ!」
ということで、STEは新曲「Lost Gun」を作った。以下の歌詞はその一部である。

―俺たちゃいつも、モノを捨てるなって言ってきたYO
でも今日は、捨てろってぇ話をするYO
捨てろよGUN ! 全ての銃を!

これは比喩ではない 銃を捨てろ
銃は他人を傷つけるだけじゃない 自分をも傷つける
銃があるから 銃を持つ 
銃を向けられるから 銃を向ける
銃を向けられたから 銃を撃つ

撃つことも 撃たれることも もううんざりだ
事件が絶えねえ 事故が絶えねえ 戦争が終わらねえ
銃が無ければ 無くなれば 世界はどうなる?どう変わる?

この世界で 一番無くした方がいい物
それはGUN
愛する人を守るため まずは銃を捨てよう
自分を守るために 銃を無くそう―

 この歌を聴いた植木は、
「お?これはまた、久々にかなり挑戦的な歌を作ったね。」
と言った。
「ダメ、ですか?」
碧央が聞いた。
「いや、いいんじゃないか。まあ、方々から苦情が来るかもしれないけど。」
植木はそう言ってふふふと笑った。
「社長、笑ってていいんですか?」
碧央が驚いて聞くと、植木は碧央の肩にポンと手を置いた。
「何かを変えようとすれば、必ず反対されるものだ。でも、変えなきゃならんことは、この世界に山ほどある。碧央が今、変えるべきだと思うことが、これなんだろ?」
「はい。」
「それなら、どんな反対があっても、やるべきだ。そして、君たちならきっとやれる。」
「社長……ありがとうございます。」
碧央は感極まって、植木に抱きついた。
「お、これは役得だな。あははは。」
世界一のハンサムにハグされて、植木もまんざらでもないようだった。

 「Lost Gun」のMVがインターネット上で発表された。英語バージョンと日本語バージョンを同時に配信した。振り付けには腕によりをかけた。強いメッセージを込める時には、STEは特にダンスに力を入れる。碧央も少し踊れるようになったので、ダンスにも加わった。碧央が激しく動かなくてもいいように、そこは涼の腕の見せ所だった。彼はフォーメーションを上手く組み合わせるのが得意だった。
「思った以上に風当たりが強かったな。」
植木が苦笑しながらつぶやいた。事務所では、抗議の電話やメールの対応に追われた。ライフル協会だとか、猟友会などの狩猟関係の団体、それが日本。海外からは、脅迫まがいのメールが届く。
「そうだな。それでも、アメリカツアーやるのか?」
内海が問う。
「やるさ。彼らの安全さえ守れれば、後はどうなってもいい。」
と、植木は言った。だが、その安全が守られるかどうかが、問題である。

 STEの希望により、Lost Gunアメリカツアーが組まれた。その情報が流れると、なんと、アメリカでは銃を捨てるキャンペーンが始まった。STEのフェローが自主的に立ち上げたキャンペーンで、STEグッズ売り場に銃専用ゴミ箱を設け、そこに銃を捨てると、1丁につき1枚のSTEポストカードがもらえるというもの。自分の銃を捨てに来るフェローもいるが、家にあった銃を勝手に持って来て捨てるフェローもいて、社会問題になった。

 アメリカの報道番組から、STEの出演を申し込まれた。銃を捨てる行為について、意見を聞きたいと言う。これには植木たちも迷いに迷ったが、
「出ます。俺たちの想いを伝えます。」
「受けて立ちますよ。」
「7人一緒なら、何も怖くありませんよ。行きましょう。」
碧央、篤、光輝にそう言われ、出演するという決断をした。

 赤い服を着たアナウンサーが言った。
「今日はSTEに来ていただきました!カモーン!STE!!」
そしてSTEが登場する。
「ハロー!ウィ アー STE!」
歓待を受け、非常に盛り上がるスタジオであったが、一通り挨拶などが終わると、にわかにピリピリとした空気が張り詰めた。
「さて、今回の新曲Lost Gunですが、これは主にアメリカに向けたメッセージと捉えてよいのでしょうか?」
アナウンサーが言った。流星が質問に答える。
「いえ、そう言うわけではありません。アメリカも含め、世界に向けてメッセージを発したつもりです。」
「今、アメリカのSTEファンの間では、銃を捨てる動きが加速しています。これを、みなさんはどうお考えでしょうか。」
次の質問には篤が答える。
「非常に喜ばしい事だと思っています。僕たちのメッセージが伝わったということですから。」
「しかし、銃を捨てるということは、防御を失う事になります。善良な市民が危険にさらされ、犯罪者の思うつぼになってしまうのではないですか?」
今度の質問には大樹が。
「銃を持たない、という選択には、賛否両論あるのは承知しています。ですが、僕たちは銃を持たない社会こそ、危険が少ない社会だと思っています。」
「ですがもし、STEのファン、フェローですね、フェローの若い女性が、銃を捨てたせいでレイプに遭ったとしたら、どうするんですか?」
次は碧央だ、
「銃を持っていないせいで、犯罪に巻き込まれるとは思いません。それよりも、銃を持っている犯人に脅される方が問題だと思うのです。」
そして光輝が後を継ぐ。
「銃を捨ててくれたフェローたちの事は、とても尊敬します。本当に勇気のいる決断だったと思います。そして、僕たちに賛同してくれて、感謝します。」
更に涼が、
「一緒に、銃のない、平和な世界を作りましょう。」
とつないだ。アナウンサーは後を受け、
「分かりました。STEの皆さんが、とても真剣に考え、真摯に我々と向き合い、勇気を持って発信している事が分かりました。視聴者のみなさん、いかがですか?それでは、歌っていただきましょう。Lost Gun!」
と、曲紹介をした。STEはパフォーマンスを披露した。真剣な、力強いダンス、歌。多くの人の心を動かし、一部の人の反感を買った。そして、この場所から外へ出る事が、どれだけ危険な事なのか、まだSTEのメンバーも、事務所のスタッフも、全く分かっていなかったのである。