碧央の足もだいぶ良くなってきて、松葉杖なしで歩けるようになった。なるべく避けて来た、歌番組への出演も、そろそろ出てもいいだろうという事になった。
 STEタワーから小型のバスに乗って出かける。そのバスに乗り込む際、光輝はさっと碧央の隣に陣取り、最後に瑠偉が乗って来た時、
「瑠偉、ここにおいでよ。」
と言って、碧央と自分の間を空けた。瑠偉は「え?」という顔をして碧央と光輝の顔を見比べたが、光輝に、
「早く、早く。」
と、急かされたので、大人しくそこに座った。
 道を曲がる時、光輝が異常なほど瑠偉の方に寄りかかってくるので、瑠偉は頑張って碧央に寄りかからないようにしていたが、とうとうくっついてしまった。
 テレビ局に到着し、みんなでバラバラと歩いてく時、足が痛い碧央は遅れがちだった。瑠偉はいつもみんなの後からついて行くので、碧央の隣を歩いていた。すると、涼が後ろに下がって来て、
「碧央、大丈夫か?」
などと話しかけて来た。そして、瑠偉にも何かしら話しかけてきて、碧央の事を瑠偉の方へぐいぐい押す。碧央は、歩きながらだんだん瑠偉と体がくっついていき、ついによろけて瑠偉の方へ体を預ける形になってしまった。
「碧央くん、大丈夫?」
瑠偉は碧央を抱き留めた。
「ああ、平気。涼くん、押してるよ。」
「あー、ごめんごめん。」
涼はそう言って、ポンと碧央の肩を叩いた。
 スタジオで、出番以外の時に座っている時にも、瑠偉は端っこに座ろうとしているのに、流星に呼ばれて、碧央と流星の間に座らされた。そして、何かというと流星が瑠偉の肩をポンと押し、瑠偉の肩は碧央の肩にぶつかる。そうかと思えば、碧央の向こう側に座っている大樹が、
「あーあ。」
などと言って伸びをして、碧央を瑠偉の方へ押しやる。
 極めつけは、番組が終わって楽屋に戻って来た時の事。瑠偉が先に楽屋に入り、その後から碧央が入って行くと、碧央の後ろから篤が、
「瑠偉!」
と声をかけた。瑠偉が振り返ると、篤は碧央の背中をどんと押し、
「わあ!」
碧央は瑠偉に思いっきり抱きつく事になってしまった。メンバーは見て見ぬふり。
「ちょ、篤くーん。」
「ああ、ごめんごめん。」
碧央が苦情を言うと、篤はそう言って、すまして着替えに取り掛かった。碧央と瑠偉の2人は、顔を見合わせて首を傾げた。

 そういった事が、その日から続いた。やたらと、碧央と瑠偉をくっつけたがるメンバー。流石に碧央と瑠偉にもわざとやっているという事が分かった。
「ねえ、碧央くん。みんな、どうしたんだろう。俺たちが付き合っているのを表に出すと、雰囲気悪くなるから、出さない方がいいって言われたんだよね?」
「うん……。だけど、どう考えても、みんな俺たちを仲良くさせようとしているよな?なんでだろう。」
「本当に、俺たちの事、バレてるの?勘違いじゃない?」
「あれ?何て言われたんだっけなぁ……みんな、俺の気持ちは分かってるって言ってたような……。そうだ、瑠偉の気持ちは確認したのか、とか。」
「分かってるって?どう分かってるんだろう。もしかしたら、違うんじゃない?」
「そうかも。いや、そうだよな。じゃなかったら、俺たちを仲良くさせようなんて、するわけないもんな。」
「じゃあ、バレてないんだ?あははは、おかしいね。あははは。」
「あはは、そうだな。あはははは。」
「それじゃあ、みんなの思い通りに、仲良くしてあげよっか?」
「我慢する必要ないって事じゃん。あははは、おかしい。」
しばらく2人は笑い合った。そして、何もコソコソする必要はない、という結論に至った。

 翌朝、一番遅く起きて来た瑠偉は、リビングに入ってくると、
「碧央くん、おはよう!」
そう言って、ソファに座っている碧央に後ろから抱きついた。
「瑠偉、おはよう。」
碧央は穏やかに笑い、手のひらで瑠偉の顎をなでなでした。仲の良い振りは、カメラの前ではずっとしてきた事なので、慣れっこである。ここ最近はしていなかったけれど。
「あ、光輝、こぼしてる!」
碧央が光輝を見て言った。
「え?あ!」
メンバー全員が、碧央と瑠偉に目が釘付けだった。光輝はコップにミルクを注いでいる最中だったので、2人に見とれたまま、ミルクがコップから溢れていたのである。
「あーあ、大丈夫?」
瑠偉が駆けつけて、台拭きでミルクを拭いた。
「ご、ごめん。」
光輝はまだ放心状態のようである。瑠偉は自分もコップにミルクを注ぎ、それを持って碧央の隣に座った。
「碧央くん、今日は足の具合、どう?」
「ああ、悪くないよ。」
そんな事を言いながら、最近の2人とは全然違った距離感を出していた。

 碧央と瑠偉が出て行ってから、まだ5人はそこから動けずにいた。
「ま、まあ、良かったよな。俺たちの作戦が功を奏したのかな。」
流星が、少々顔を引きつらせて言った。
「ほんと、良かったねえ。2人は仲良しに戻ったんだよ。」
だが、光輝は本当に嬉しそうに言う。
「昨日、話し合ったのかな。」
大樹がそう言うと、
「俺のお陰だな。2人をバッチリハグさせたから。」
篤が言うと、
「うんうん、そうだよね。」
光輝が篤に抱きついた。
「篤くん、お手柄!」
褒められても、篤の表情は複雑である。
「本当に、あの2人は仲がいいんだよなぁ。」
入り込める気がしない……篤の心の声が、みんなにも聞こえたような気がした。