時は流れ、コンサートツアーがいよいよ目前に迫り、会場でのリハーサルが始まった。碧央はステージ上の椅子に座っている事になったが、袖に引っ込む時にどうするかというのが悩みどころだった。
「引っ込む時は、片足ケンケンで行くよ。」
碧央がそう言うと、
「ダメだよ、それだと振動で傷が痛むでしょ?早く治すためにも、無理は禁物だよ。」
瑠偉が反対した。
「いっそ、最初からずっと車椅子に乗っているっていうのはどう?そうしたら、誰かがさーっと押して素早く袖に引っ込めるじゃない?」
光輝がそう言うと、
「いや、それだと、いかにも怪我人っぽくて、フェローに心配をかけるよ。」
と、碧央が言った。
「はい。俺が、碧央くんを抱えて運びます。」
瑠偉が手を上げて、そう発言した。
「いやいや、ただでさえコンサートは体力消耗するのに、それはやめた方がいいでしょう。」
涼がすかさず反対した。
「どうって事ないよ。やってみようか?」
瑠偉はそう言うと、椅子に座っている碧央を横抱きにひょいっと持ち上げた。
「わーぉ。」
あまりに軽々と持ち上げたので、一同びっくりである。
「軽い軽い。ね?これでこうやってさーっと。」
瑠偉は実際に、袖に向かって小走りに移動した。そして、またステージ上のみんなの所に戻って来た。
「ほらね。」
瑠偉は碧央を椅子に戻し、どや顔をした。
「まあ、それが一番早いけど……。」
流星はそこまで言って、みんなを見渡した。
「じゃあさ、碧央が引っ込む回数を最小限にしよう。それで、引っ込む時は瑠偉が運ぶと。」
大樹がそう提案し、実際そういう事になった。また、碧央と瑠偉以外のメンバーは、瑠偉が碧央に気を遣っている、と言い合ったのだった。

 そして、コンサートが始まった。碧央がダンスをしない事を除いては、いつも通りのSTEのコンサートが出来た。外見上は。だが、これが大きく違う、という事が実はあったのだ。
 1日目を終えて帰宅した彼らは、また、碧央と瑠偉が去ってから、顔を突き合わせて小声で話し合った。
「ねえねえ、今日のあの2人、いつもの匂わせがなかったよ!」
光輝が言うと、涼も、
「いつも、必ず1ステージに1つはキスの真似があったし、5回はいちゃつく場面があるのに!」
と言い、
「今日はゼロ……。」
と、大樹が後を継いだ。
「瑠偉が碧央を抱っこして移動した時には、そうとう会場が湧いたけどな。」
篤がそう言うと、
「でも、いつもなら、ああいう時は更に調子に乗って何かやるじゃん。」
と、光輝が言った。すると流星も、
「だよな。キスの真似が出ると思ったら、何もせずにさーっと真面目に引っ込んでたもんな。」
と言った。
「おかしいよ、絶対。俺は確信したね。あの2人には、何かわだかまりがある。」
涼が言う。
「わだかまりか……。あれかな、碧央の心の中で、どうしても自分を置いて逃げて行った瑠偉の事が許せない、とか。」
流星がそう言うと、
「きっとそうだ。頭では仕方なかったと分かっていても、心の中で何かがわだかまっているんだ。」
と、大樹が言った。
「どうしたらいいんだろう。このままでいいの?」
光輝が困った顔をして言う。
「時が解決するんじゃないか?」
しかし、篤は楽観的に言った。
「でもさ、瑠偉が可哀そうだよ。あれだけ一生懸命に世話を焼いているって事はさ、許してもらいたいんでしょうよ。切実に。」
涼がそう言い、光輝も、
「そうだよね、瑠偉、可哀そう。」
と言った。
「よし、俺たちで何とかするか。」
と、突然流星が言った。
「何とかって?」
光輝が聞く。
「何か作戦を立てよう。2人が仲良くなれるような、作戦を。」
と、大樹が言った。果たして、どんな作戦が飛び出して来るのだろうか。そんな話が進んでいる事などつゆ知らず、碧央と瑠偉は、またもや2人でこっそりイチャイチャしているのであった。
 つまり、フェローサービスにかこつけてボディタッチなどをする必要が無くなったから、しなくなっただけなのである。また、下手に人前で接触多めにすると、自分たちの関係がバレてしまうような気がして、出来ないと言った方がいいかもしれない。