司令官室では、食事が提供されていた。パンとスープと、ソーセージとサラダ。簡単なものではあるが、ちゃんとフォークやナイフも出され、ナプキンまで置かれた。
「どうだ?このソーセージは上手いだろう?ゴールドちゃん。」
「は、はい。」
司令官は事あるごとに、舐めるようにして光輝を見る。光輝は冷や汗をかいた。
 食事の後、司令官は食器を下げさせ、立ち上がると、光輝の後ろへ回った。
「綺麗な髪をしているな。」
司令官はそう言って、光輝の後ろ髪をサラッと撫でた。そして、手を光輝の肩に乗せ、更には首筋を撫でる。光輝が首を竦めるのと同時か、それよりも早く、流星が立ち上がって司令官の横に来た。そして、司令官の手を掴んだ。
「ゴールドに触るな。」
司令官は流星の顔を睨みつけた。だが、流星は引かない。
「まあいい。近くで見られるだけでも。」
「こいつら、俺たちが憎くて誘拐したんじゃないのかよ。」
流星は、日本語でそう呟いた。
 司令官はドアを開け、外に向かって叫んだ。
「おい!逃げたやつらはどうした?捕まえたのか?」
「いえ、それがまだ。」
廊下にいた軍人が答えた。
「何をやっているんだ!早く捕まえろ!」
司令官は廊下へ出て、部下と何やら話し始めた。
「碧央と瑠偉、無事なんだね。」
光輝が言った。
「ああ、何とか助けを呼んでくれたらいいが。」
流星が応える。
「ねえ、流星君。僕に考えがあるんだけど。」
「何だ?」
「せっかくここの司令官が、僕の事を気に入ってくれているみたいだからさ、これを利用しない手はないと思うんだ。」
「光輝……何をする気だ?」
「僕たちの命を助けてもらう代わりに、僕が……生け贄になるよ。」
「何言ってんだよ、ダメだよ。」
「でもさ、僕たちはまたフェローの前に戻って、パフォーマンスしなきゃ。メンバーの命が一番大事でしょ?」
「だからって、お前が犠牲になることなんてないよ。」
「いいんだ、みんなの命に比べたら、どうって事ないよ。ねえ、僕だと上手く伝えられないから、流星くんが司令官に言ってくれないかな。みんなの命を助けてくれたら、僕を好きにしていいって。」
「そ、んな事……言えるかよ。」
「お願いだよ。」
光輝が必死に食い下がった。そこへ、司令官が部屋の中に戻って来た。
「何を言い争っているのかな?」
光輝が一心に流星を見つめる。流星は重い口を開いた。
「あー。ゴールドがあんたに提案があるそうだ。俺たちの命を奪わないと約束してくれたら、その……あんたの自由にしていいと。」
流星がそう言うと、司令官はぱっと嬉しそうな顔をして、光輝を見た。
「そうか、そうか。うん。」
司令官は両手をパンと合わせ、自分の手をにぎにぎしながら部屋の中を歩いて回った。
「分かった。約束しよう。君たちの命は奪わない。それでいいな?」
司令官はそう言い、光輝の顔を覗き込んだ。光輝が頷く。
「それじゃあ、ムーンにはここから出て行ってもらおうか。」
司令官は、部屋の外にいた部下に、流星を檻の中に戻すように命じた。
「光輝……。くそ、畜生、俺のバカ。あんた、あんまりひどい事はするなよ!」
引っ張られながら、流星は司令官に向かって最後にそう言い残した。
「さて……。」
部屋に2人きりになると、司令官は光輝に近づいてきた。光輝はぎゅっと目をつぶった。司令官は、光輝の頭を撫で、顔を撫で、肩に手を置いた。
「ほ、本当に、みんなの命を助けてくれるんだよね?」
光輝は震える声でそう言った。
「もちろんだとも。ただ……逃げた2人の事は、保証できないが。」
司令官は、指で光輝の顎を持ち上げながら、そう言った。すると、光輝はカッと目を見開いた。
「なんだって?!それじゃあ、約束が違うよ!7人全員の命を助けてくれなきゃ!」
「だが、もう今頃は、私の部下が彼らを捕まえるために、発砲したかもしれないし。」
光輝は、司令官の胸をドンと手で押し、突き飛ばした。
「ゴールド、今頃何を言っても無駄だよ。」
司令官は、ニヤニヤしながら迫ってくる。光輝は部屋の中を逃げ回った。だが、捕まる。両手を掴まれたので、足で司令官の胸を蹴って手を放させ、その勢いでくるりと宙返りした。光輝は身軽である。
「うっ。このっ!」
胸を蹴られて後ろに倒れた司令官は、顔を真っ赤にし、立ち上がって迫って来た。光輝が逃げようとすると、司令官は光輝の顔をビンタした。そして、光輝の胸倉を掴んでテーブルに押し付けた。
「大人しくしろ!そうすれば、命だけは助けてやる。」
鼻息荒く、司令官が顔を近づけて来た時、
「司令官殿!日本政府が会見を開くようです!」
と、ノックと共に声が聞こえて来た。司令官は顔を上げ、
「何?今行く。」
そう言うと、光輝の事を離した。そして、部屋を出て行った。光輝は部下に連れられて、檻の中に戻った。

 「光輝!」
光輝は仲間の元に戻って来た。
「光輝!お前、顔腫れてるぞ!」
篤が光輝の顔を見てそう言った。ビンタされた頬が、真っ赤になって少し腫れていた。
「篤くん……。」
光輝は涙目になって、篤の胸にこつんとおでこを付けた。
「聞いたぞ。無茶するなあ、お前。叩かれたのか?」
篤は光輝の頭に手を乗せた。
「うん。僕が抵抗したから……だって、逃げた2人の命は保証できないって言われたから。」
光輝がそう言うと、
「そっか、そっか……。」
そう言いながら、篤は光輝の背中を両手でポンポンした。光輝は、手を篤の背中に回し、ぎゅっと抱きついた。

 少し離れたところに座っていた大樹と涼は、こっそりと話した。
「やっぱり、光輝は篤くんにこれだな。もしかしたら、と思っていたが、どうやら本当にそのようだ。」
大樹は、指でこっそりハートを作り、そう言った。
「そうだな。そして、流星くんは光輝にこれだ。今、篤くんに甘える光輝を見て、あの表情だもんな。」
涼も、指でこっそりハートを作った。
「ああ。だが、篤くんの方は……。」
大樹がそう言って言葉を切ると、
「瑠偉、だよな……多分。」
と、涼が後を継いだ。
「うまく行かないもんだな。瑠偉はおそらく、碧央だろ?」
大樹がなおも言う。
「いやー、あの2人は分からないなぁ。フェローの前ではベタベタして匂わせまくってるけど、実生活ではそれほどでもないしさ。単なるフェローサービスかもしれないぜ。」
涼がそう言うと、
「確かに。」
と、大樹もそう言って頷いた。