碧央と瑠偉は、とにかく走った。後ろからライフルを持った軍人たちが追いかけて来るので、森の中へ分け入り、その森を抜けると……そこは断崖絶壁だった。
「わぁ、なんだこれ?」
瑠偉が立ち止まって叫んだ。
「あ!なに?海?森を抜けたら、海?」
碧央も目を丸くして叫ぶ。
「方向を間違えたかな?反対側へ行かないと!」
瑠偉がそう言い、2人は断崖に沿って走った。けれども、どこまで行っても同じように断崖絶壁。
「碧央くん、どこまで行っても断崖絶壁だよ。しかも、もしかしたら、あの木の切り株、最初に見たやつかも……。」
瑠偉が息を切らせながら言った。
「そうだよな。つまり、一周したって事か?ということは……無人島?」
碧央が言う。
「多分。すっごく狭い、断崖絶壁の孤島だよ。ということは……助けを求めようとしても……。」
瑠偉が言うと、碧央は後を継いだ。
「誰もいないじゃん!」
うぉーっと言って2人は頭を抱えた。だが、後ろから声が聞こえて、また走り出した。だんだん薄暗くなってきた。完全に日が暮れれば、闇に紛れることが出来る。だが……
「なんでこんな時に、真っ白な衣装着てるんだよ、俺たちは!」
碧央が嘆くのも無理はない。暗闇の中、白い衣装がピカピカ光っているようだ。2人は上着を脱いた。ズボンは白いけれど、タンクトップは黒いので、上半身は目立たなくなった。
しばらく走ってから、横倒しになっている木を見つけて、そこに座った。
「どうしよっか?どうやって助けを求める?」
瑠偉が問う。
「船か、飛行機にでも見つけてもらうしかないって事だよな?」
碧央がとりあえず答える。
「飛行機か……俺たちの事、探してくれてるよね、きっと。そうしたら、SOSのサインでも作るか。」
瑠偉が言った。
「え?どうやって?」
碧央が驚いて瑠偉を見る。
「うーん……火を起こして、文字を作るとか。」
瑠偉が記憶をたどりながら言った。以前、バラエティー番組でサバイバルキャンプをした事があったのだ。その時に、火の起こし方を教わったし、食べ物の見つけ方も教わったのだった。
「あの時の体験が役に立つな。」
碧央がそう言うと、
「だね。ははは。」
瑠偉が笑った。2人は木で火を起こし、食べられそうな木の実を取って、焼いた。
「ねえ、STEとSOS、どっちの文字を作ろうか。」
瑠偉が木の実を食べながら言った。
「この木の実、本当に食える物なのか?」
碧央はまだ口にしていない。
「意外と美味いよ。」
瑠偉はもぐもぐしながら言った。
「そうか?ああ、意外と美味いな。Oはたくさん火がいるから、STEの方がいいかもな。」
碧央は一口食べ、そう言った。
「なるほど、そうだね。」
瑠偉が応えた。腹が膨らむほどの食料ではなかったが、多少エネルギーを入れたので、もう少し頑張れそうな気になる2人。そこら辺の草をむしって場所を作り、木切れを集めて組んだ。それでSTEの文字を並べて行くのに、だいぶ時間がかかりそうだ。そこへ、カサカサという音がし、英語を話す声が聞こえた。
「やばい、瑠偉!火を消して逃げるぞ!」
さっきの焚火を足で消し、2人はまた走った。とにかく今は逃げなければならない。

 しばらく行って、身をかがめた。
「しつこいな。」
碧央は小声で言った。
「これだけ狭い島だから、向こうも何とか見つけようとするでしょうよ。」
瑠偉も小声で応える。
「俺たち、逃げ切れるかな……。」
碧央は多少気弱な声を出した。2人は木の陰に隠れ、地べたに座っていた。気が付けば、空には満点の星。その星の灯りで、ほのかに相手の顔が見える。碧央が一瞬黙って、瑠偉の顔を見た。
「見つかったら、撃たれるよな。」
碧央が言う。
「壁を超える時、撃って来たからね。撃たれるだろうね。」
そう言って、瑠偉も碧央の顔を見返した。
「もし、これで死ぬんだったら……。」
碧央はそこまで言って、言葉を切った。
「ん?」
瑠偉が疑問の声を出した。
「俺、STEのメンバーに出逢えて、たくさんのフェローに愛されて、すごく幸せだった。STEとして死ねるのは本望だけどさ、でも、1つだけやり残したことがある。このままじゃ、後悔する。死にきれない。」
碧央が言った。
「碧央くん?」
「俺、お前の事が……。」