ある日、植木がメンバーに言った。
「実はさ、ベトナムとカンボジアにいる友人たちから、ライブをしに来てくれないかと打診があったんだ。冬休みに行ってくれないかな?」
植木は少し下手(したて)に出ている。
「俺はもちろんいいですよ。みんなも行くよな?」
流星がそう言うと、メンバーはみな頷いた。
「難民キャンプでやるんですか?それとも都市のライブ会場で?」
流星が聞くと、
「うん、もちろん前者だ。」
と、植木が言った。すると瑠偉が、
「俺たちって、いつも先進国の人に向けた、挑戦的な歌を作ってるじゃない?でも、困っている人たちの前で歌うなら、もっとこう、励ますような歌を歌った方がいいんじゃないかな?」
と言った。
「そうだな。今後もこういう活動が増えるなら、作っておいた方がいいよな。」
と、大樹が言い、
「あとさ、外国に行ったら、その国の言葉で歌ってあげたら、子供なんかも喜んでくれるんじゃないかな?」
と、光輝が言った。
「OK、OK。確かに光輝の言う通りだ。今までの曲も、せめて英語に翻訳して歌うとか、した方がいいよな。」
と、流星が言った。そんなわけで、STEは新しく曲を作り、歌詞は、英語とベトナム語、カンボジア語をつけることにした。
「そんなに、覚えられるかな……。」
碧央が心配そうに言うと、
「大丈夫だ、まだ2カ月もある。」
と、植木が言った。
「うわ、2カ月で作詞作曲、振り付けして、英語とベトナム語とカンボジア語の歌詞を覚えるの?!」
と、涼が悲鳴を上げ、流星が、
「できる、できる!俺たちならできる!」
と言ったので、メンバーみんなは
「よっしゃー!」
と声を上げた。若干、無理に自分たちを鼓舞している感はあるが、忙しいのに慣れて来たメンバーたちであった。
 新しい曲の歌詞は以下である。

― 僕たちはつながっている
この地球という1つの星の上で、一緒に生きている
辛い事も悲しい事も みんなで分け合おう
楽しい事も嬉しい事も みんなで分け合おう
空も 水も 空気も みんなで分け合おう

僕の為に笑ってよ
君の為に笑うよ
また、会いに行くよ
だから 待っていてね ―

「Meet Again(ミート・アゲイン~また会おう~)」

 少しスローな曲で、歌詞も少なめ。慣れない外国語で歌うので、ラップもなし。覚えやすくした。ダンスはばっちり付けた。ダンスは万国共通の言語である、とSTEのメンバーは今回強く感じたのだった。

 練習に明け暮れる毎日。
「ダメダメ!コーラスが合ってない!」
歌の練習をしていると、大樹先生がとても厳しい。
「スローな曲は、ハーモニーが合ってないと最悪だ。俺たちはプロなんだから、妥協できないぞ。」
「ごもっとも。で、誰と誰が合ってないって?」
涼が言うと、
「涼と碧央がハモるところ。2人で壁に向かって練習!」
と、大樹に言われた涼、碧央は、
「はーい。」
と言って、レッスン場の端っこに行き、壁に向かって特訓した。
 一方、振り付けに関しては、涼先生が厳しい。
「合ってない!篤くん、ここの時、腕の角度が合ってないよ。」
涼に言われた篤。
「腕の角度?!わ、分かった。気を付ける。」
「鏡見てー。そんで、本番は鏡がないんだから、鏡で確認したら、後は見なくても同じように出来るようにねー。行くよー、はいワンツースリーフォー、あー、流星くん、ここ、ワンテンポ遅れてるよー!」
「はい、すみません!」
涼に指摘された流星が、叫んだ。

 レッスンを終え、みんなクタクタになって家に帰る。碧央と瑠偉がお互いを支えるようにして、肩を組んで歩いていると、光輝が後ろから2人の肩をガシッと抱いた。
「いいなあ、2人で一緒に帰ってさあ。楽しそう。ねえ、家でいつも何してるの?」
光輝がそう言うと、瑠偉は、
「え?家で?……歌の練習と、振り付けの復習と、学校の勉強。」
と言った。光輝は、
「ふ……はは。僕と同じだ。」
と、反笑いで言ったのだった。
 2カ月間の製作、練習、練習、練習を重ね、STEはベトナムへ飛んだ。ベトナム語で歌うと、子供たちが目を輝かせて聴いてくれた。挨拶などもベトナム語で頑張った。新聞やテレビの取材も入った。次にカンボジアへも入り、同様にライブを披露した。新曲は、英語バージョンをネット上で売り出した。今回、英語でミュージックビデオも作成し、ネット上に公開した。
 すると、アジア各国でのアクセス数が激増した。日本での知名度よりも、アジアでの知名度の方が上回った。日本に帰国してからも、アジアからのライブのお誘いが絶えなかった。
 そこで、週末を利用してアジアツアーを行う事にした。韓国、台湾、タイ、フィリピン、インドネシアと、次々に行った。今まで作った歌で、英語に翻訳したものもあったが、それでは間に合わず、日本語のまま披露した歌もあったが、ファンたちは日本語の歌もサビくらいは覚えてくれていて、一緒に歌ってくれるのだった。
「俺、めっちゃ感動したよー。一緒に歌ってくれるなんて!フェローのみんながさぁ。」
涼がそう言うと、大樹が、
「フェローのみんな?ああ、なるほど。ファンは仲間だもんな。フェローだ。」
と言い、篤も、
「フェロー、愛してるよー!」
と言った。だが大樹に、
「ここで言ってどうするよ。」
と、突っ込まれた。ここは楽屋である。
「僕も感動したー!フェロー、アイラブユー!」
光輝も楽屋でそう叫んだ。
 そうして、各国のライブは、フェローによってネット上に拡散された。すると、アジアにとどまらず、ヨーロッパやアメリカにもフェローの輪が広がっていった。フェローたちは言った。
「とにかくダンスがすごいんです!」
「歌が上手い!ハーモニーが素敵!」
「顔が可愛い!」
「歌詞が素晴らしいんです!彼らは地球を救うと思います!」