「寝坊?」
「お前が徹夜でテレビを見てたからうるさくて寝れなかった」
「だって幽霊は寝なくても活動できるし。ちょっかいかけなかっただけありがたく思え」
「机のビニール袋から菓子パンとって」
「めんどくさ」
「それくらいやれ。誰のせいでこうなったと思ってる」
着替え終えた彼に菓子パンを放り投げる。彼はそれを片手でキャッチすると、慌ただしく出ていった。
「おい、どうして買っておいた食べ物が半分近くなくなってる」
帰ってくるなり、彼は開口一番に言った。
「食べた」
食欲なんてこれっぽっちもなかったけど、彼が引っ越してきて、これまで何もなくがらんとしたこの部屋に、食料がきたのだ。久しぶりに『食べる』という行為をしてみたかった。満腹感は感じなかったけど、不思議と味は感じたのでひたすら食べ続けてしまい、気づけば彼が帰ってきたのだ。太った気もしないし、便意もない。私が食べたものはどこに消えたのだろう。
「誰の金で買ったと思ってる」
「だってすることなくて暇だったから」
「だからって人の食料を勝手に食うな。というか、いい加減成仏したらどうだ」
「できるならとっくにしてるわ!もうこの暇な生活にも飽き飽きしたし、逆に成仏する方法を教えてほしいね!」
「じゃあ、お札でも貼ってみるか」
「あんなので成仏できるのかねぇ」
「試してみる価値はあるだろう」
「じゃあ買ってきてよ。お寺か神社なら売ってるんじゃない?」
「俺の金で買うのは癪だな……」
彼は少し黙った後、無言で靴を履きなおした。
「癪なのに行くんだ」
「お前に居座られる方が癪だ」
三十分程経って、彼が戻ってきた。
「買ってきた?」
「完全に無駄足だった。近くの神社に行ったけど、社務所はとっくに閉まってた」
「そっか」