しばらく歩くと、妊娠出産関係の多様な製品を扱っている専門店の看板が目に入ったので、迷わず中に入って、店員を探した。
 同年代か少し年上で出産経験者なら尚いいんだけどな、と思っていたら若い店員が近寄ってきた。
 ちょっと若すぎる。
 それにマスクから鼻が出ていた。
 とっさにその店員をやり過ごして、店の中をぐるぐる回りながら目当ての人を探した。
 
 すると、ベビーコーナーで可愛い服を畳んでいるマスク姿の女性を見つけた。
 30代半ばくらいだろうか、この人なら的確なアドバイスを貰えそうだ。
 近づいて声をかけた。
 
「あの~、すみません。ちょっといいですか。お洒落なマタニティウェアを探しているんですけど」

 店員は手を止めて考子に笑いかけた。
 そして、「こちらへどうぞ」と売り場へ誘導してくれた。
 そこには色とりどりのマタニティウェアが並んでいた。
 ワンピースタイプ、パンツタイプ、そして、レギンスなど。
 
「お勧めのものってありますか?」
 店員は考子の服装をチェックするように見たあと、どう対応すべきか思案を巡らせるような表情をした。
 そして、徐に口を開いた。
 
「私の経験をお話させていただいてもよろしいですか」

 考子は待ってましたとばかりに顔を輝かせた。
 その話を聞きたかったのだ。

「私は3年前に出産したのですが、マタニティウェア選びで失敗したのです。デザイン重視で選んだことが失敗の原因でした。動きやすさとか心地やすさとかよりもカッコ良さにばかり目がいっていたのです。だから、通気性や肌触りといった妊婦服に必要な機能のことはまったく頭にありませんでした」

 そして、今言ったことが目の前の客の心にすとんと落ちるのを待つかのように時間を置いた。
 
「いかにも妊婦服というデザインを避けたい気持ちはわかりますが、そんな見た目のことよりも、これから出産までをいかに快適に過ごすかという観点から選んだ方が失敗が少ないと思います」

 そう思いませんか、というふうにニッコリ笑った。
 
「お腹や胸がどんどん大きくなっていくわけですから、伸縮性のあるものや締め付けないものを選んだ方が絶対楽なんです。それを踏まえた上で、デザインだとか色だとかを決めていったらいいと思います」

 出産を経験している上に多くの妊婦客と接している店員の言葉には説得力があった。
 だから、一も二もなくその意見を受け入れた。
 そして、デザインと色の好みを伝え、機能性重視でワンピースとパンツとレギンスを2着ずつ買った。