「オゾン層といえば、オゾンホールが拡大しているという報告があったんじゃなかったっけ」

「そう、日本人の研究者が発見したのよ」

「えっ、日本人? 確か宇宙最古の光を観測したのも日本人だったよね。やるね、日本人も」

 新は我がことのように顔を綻ばせた。

「そうなのよ。気象庁の予報研究部に所属していた南極地域観測隊員が1982年に昭和基地でオゾン層の観測をしている時、南極上空のオゾン量が著しく減少していることを発見したの。それを国際会議で発表したのが世界初の南極オゾンホールの報告なの。オゾン層は太陽からの有害な紫外線を吸収して地上の生態系を保護すると共に成層圏の空気を温める効果があるから、生物や気候に大きな影響を及ぼすことがわかっていて、当時大変な反響があったらしいの」

「それって、確かフロンが原因だったよね」

「そう、冷蔵庫や空調機に使われているフロンは夢のガスとも呼ばれて色々なものに使われていたの。そしてその多くが廃棄される時に空気中に放出されていたの。当時誰も有害だと思っていなかったのよ。でもね、アメリカの研究者がフロンによるオゾン層破壊の可能性を指摘して大騒ぎになったの。その後、国際的な議論が盛り上がって、1985年に『オゾン層保護のためのウィーン条約』が締結されたの。そして、1987年に『オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書』が採択されて、やっとフロンの規制が本格的に始まったの。現在は代替フロンが使われるようになっているけど、温室効果が高いことには変わりがないから、将来的にはノンフロンへの代替が必要と言われているわ。でも、ノンフロンの開発は緒に就いたばかりだし、オゾンホールの動向には注意が必要ね」

「そうだね。オゾン層が破壊されると皮膚がんの発生が増加すると言われているので心配だな。僕たちの子供の健康のためにも一日でも早く解決して欲しいね」

 新は不安そうな目で考子のお腹を見つめた。