では、自己紹介の続きをさせてもらうわね。
 大きさはね、直径0.03ミリくらいかな。
 ちっちゃいでしょう。
 頼りなさそうに見えるでしょう。
 でもね、一人じゃないのよ。
 いくつもの細胞がわたしを取り囲んでいるの。
 そして、その状態を卵胞(らんぽう)と呼ぶのよ。
 
 わたしは今、卵巣(らんそう)から卵管(らんかん)へ放出されたばかりなの。
 ほっとひと息つきたいけど、そういうわけにもいかないの。
 だって、わたしの寿命は長くて24時間しかないから、その間に王子様と出会わなかったら人間にはなれないの。
 だから、これから必死になって王子様を探しに行くのよ。

 王子様は誰かって? 
 そのお方はね、精子様よ。
 はるか遠くから、わたしを目がけて泳いでくるんだって。
 どんな殿方かしら? 
 ハンサムだったら嬉しいな、って、ワクワクしている場合じゃないの。
 だって、早く出会わなかったら、わたし死んじゃうからね。
 
 ところで、最終ゴール地点はどこだと思う? 
 それはね、子宮なの。
 そこまでの距離はかなり遠いのよ。
 だって、20センチメートルもあるんだから。
 
 えっ、
 何? 
 短いじゃないかって? 
 そんなことはないわよ。
 わたしの体は直径0.03ミリなのよ。
 つまりね、自分の体の6万6千倍以上の距離を旅しないといけないの。
 あなたの歩幅が1メートルなら6万6千メートルの旅になるのよ。
 東京からだとどこまで行けると思う? 
  
 わからない? 
 では、教えてあげるわ。
 小田原よ。
 神奈川県の小田原。
 かまぼこやおでんなんかが有名よね。
 そこへ行くのに新幹線でも34分くらいかかるのよ。それを乗り物を使わないで行くの。
 あなたは歩いていける? 
 
 行けないでしょう。
 わたしは新幹線も車も使わずに移動しなければいけないの。
 大変なのよ。
 わかったでしょう、わたしがどれほど長い旅をするのか。
 だからね、急がないと大変なの。
 道草している時間はないの。
 理解してくれた? 
 
 頷いたわね。
 わかってくれてありがとう。
 では、出発します。
 無事子宮に辿り着けるように見守っていてね。