その時、分娩室は緊張に包まれていた。
 新の顔は真っ青になっていた。
 へその緒が首に巻き付いていたのだ。
 彼は経験上、臍帯巻絡(さいたいけんらく)が珍しいことではないことを知っていたが、我が子のこととなると冷静ではいられなかった。
 
 助産師さん早く処置して! 
 
 大声で叫んだつもりだったが、その叫びは声にならなかった。
 しかし、この緊急時においてもベテランの助産師は落ち着いていた。
 首に巻き付いたへその緒を素早く外して、手際よく母体から切り離したのだ。
 その瞬間、
 赤ちゃんの肺が動き出し、
 息が吸われ、
 息を吐き出した。
 
「おぎゃ~」

 産声(うぶごえ)が響き渡った。
 それは、新たな命の存在を世に知らしめる轟のようであった。