ふと気づくと1時間近くも眠っていた。
 その間、赤ん坊の頃に戻った自分とお腹の中の赤ちゃんがお遊戯している夢を見ていた。
 とても幸せな夢だった。
 
 考子は大きく背伸びをしたあと、CDを入れ替えた。
 音楽以外の胎教をするためだ。
 スピーカーからは英会話が流れてきた。

「クラシック音楽だけじゃなくて、留学しても困らないように、英会話もいっぱい聞かせてあげるね」

 お腹に向かって優しく語りかけた。

 英会話のCDが終わっても、お腹を擦りながら尚も語りかけ続けた。
 新から「君の心音が聞こえているはずだから、ゆったりと穏やかな気持ちになることが大事だよ。君の心音が安定すると胎児も落ち着くからね。それに、君の声も聞こえているはずだから、優しく話しかけてあげると喜ぶと思うよ。それから、素敵な音楽を聞かせてあげることもいいかもしれないね。外からの音はまだよく聞こえないし、音楽の素晴らしさはわからないかもしれないけど、君が好きな音楽を聴いて幸せな気持ちになれば胎児も幸せな気持ちになると思うんだ」と聞いていたので、赤ちゃんにお腹を蹴られた日からお腹に向かって一生懸命語りかけたり、クラシック音楽や英会話を聞くことが日常になっていた。
 
 新から借りた専門書を読むと、『胎教とは、生前教育ではなく、ママがリラックスできる環境を作って、赤ちゃんを気持ちよくしてあげること』と書かれていたが、でも、それだけではないはずだと考子は思っていた。
 妊娠期間中に色々な事を教えてあげることも可能だと思っていたのだ。
 だから、教育という観点に重きを置いていた。
 中でも、アメリカに留学するかもしれないことを考えて、英語を聞かせることに多くの時間を費やしていた。
 そして、もう少しお腹が大きくなったら進化生物学のことを話してあげようと考えていた。
 新に医学の話をしてもらうことも考えていた。
 
「母親なら誰でも赤ちゃんのためになんでもしてあげたいって思うわよね」

 考子はまた独り言ちてお腹に手を当てた。