わたし 

 あのね、さっきね、夢を見ていたの。

 胎児なのに夢を見るのかって?

 見るのよ。
 しっかり見てるのよ。

 眠っている時にわたしの目が動いていることを知ってる? 

 知らないか。
 そうよね、お腹の中のことだからね。
 誰も見たことはないわよね。
 でもね、それが夢を見ている証拠なの。
 
 どんな夢を見ているのかって?

 それは、色々なんだけど、ご先祖様の夢を見ることが多いわね。
 ご先祖様といっても血の繋がった家族のことじゃないわよ。
 それよりずっと前のご先祖のことよ。
 単細胞生物だった頃の夢を見たことがあるし、シアノバクテリアになって酸素を吐き出している夢もあったわ。
 巨大な魚になって海を優雅に泳いでいる夢も見たし、両生類になって初めて肺呼吸をした夢も見たの。
 ネズミのような形をした哺乳類の先祖になって昆虫や草を食べている夢も見たし、大型の恐竜から逃げまどっている夢も見たわ。
 わたしの近くを何トンもある巨大肉食恐竜がズシンズシンとのし歩いてきて、隠れている草むらに首を突っ込んできたの。
 危なかったわ。
 見つかったら食べられちゃうから、体がブルブル震えて止まらなかったの。
 本当に怖い夢だったわ。
 こんな恐ろしい夢はもう見たくないわね。
 
 それから、樹の上で生活する類人猿になって果物を食べた夢を見たし、最初の人類になって洞穴生活をしている夢も見たわ。
 まだ全身毛むくじゃらだったことをよく覚えているわよ。
 それから、マンモスを狩って生肉を食べる夢も見たし、ネアンデルタール人と出会って恋をする夢も見たのよ。
 日本人はネアンデルタール人のDNAを持っているから、ホモサピエンスとネアンデルタール人の混血がわたしの祖先かもしれないわね。

 それから~、
 そう、最近見た夢はね、わたしの将来のことだったわ。
 結構現実的な夢なのよ。
 パパとママと三人で大学進学について話し合っている夢だったかしら。
 パパがわたしに聞くの、どういう仕事をしたいのかって。
 わたしは答えられなくてじっと考えているの。
 そんなに簡単には決められないでしょ。
 どういう仕事をするのかって大事だからね。
 
 本音を言えばね、楽にお金を稼げる仕事があったらいいな~って思うんだけど、そんなうまい話はないわよね。
「うまい話には裏がある」って言うからね。
「儲かりまっせ」なんて言って近づいてくる人を信用したら酷い目に合うからね。
 偵察魂からの情報によると、投資詐欺が増えているらしいけど、それは罠だから信用しちゃダメよ。
 この低金利の時代にお金が倍になるなんてことはないんだから。

 ん? 
 ちょっと話がずれちゃったかしら。
 え~っと、そう、そうだ、仕事の話だったわね。
 まだ具体的にどういう職業というものはないんだけど、これからの時代を考えると、手に職をつけなきゃダメかなって思ってるの。
 なんの専門性もなく大学を卒業しても誰も相手にしてくれないと思うのよ。
 だから、文科系は厳しいかもしれないわね。
 英語が喋れたって当たり前だし、マーケティングもAI(人工知能)には敵わないし、RPA(ロボットによる業務プロセスの自動化)が全面導入されて事務作業の自動化・効率化が進めば定型的な仕事なんて完全に無くなっているだろうし。
 そう考えると、先端技術を学べる理工系の大学へ行って、更に大学院で博士号を取得して、卒業したら時代を先取りした仕事に就くのがいいのかなって思うの。
 どうかしら。