「さあ、行きましょう」

 母親は自分のことのように仕切っていた。
 父親はおとなしく従っていた。
 それを見た考子は、〈いつもこうなの〉という視線を新に送った。
 すると、〈いいじゃないか〉という視線が返ってきた。
〈まあね〉と送り返した。
 
 受付で申込用紙に必要事項を記入し、初穂料とお守り一式セットの代金を支払った。
 待合室に案内されたのでそこで待っていると、名前を呼ばれたので4人で昇殿し、用意された椅子に座った。
 すぐにマスク姿の神主さんが現れて、祈祷が始まった。
 厳かな気持ちになって首を垂れると、大幣(おおぬさ)がシャンシャンと振られた。
 考子は「元気に生まれてきますように。安産でありますように」と心の中で祈った。
 
 祈祷は30分ほどで終了した。
 考子にとってこういう習わしはまったくの関心外だったが、今は、来て良かったと心底から思っていた。
 気持ちが厳かになり、今まで以上にお腹の赤ちゃんに真摯に向き合う覚悟ができていた。
 そのせいか、思わず感謝の言葉が口をついた。
 
「お母さん、勧めてくれてありがとう」