珠丸はこっちへ駆け出してくる。反対に実亨親王は従者によって身を起こされ、肩を借りながら歩いていった。

「……くそ、あやかしを舐めていた……」
「東宮様! 私達の願い、聞き届けてくれますね?」

 内心自分でも驚くくらいの大きな声が胃の底から出た。実亨親王は私をまっすぐに見ると、顔をそむける。

「……致し方ない。聞かねばならぬ」
「お願いしますね」
「不本意だが、約束しよう。……最後にひとつだけ、問いたい事がある」

 なんですか? と尋ねると、実亨親王は私を捉える瞳の眼光を更に増した。

「そなたは……いったい誰なんだ?」
「……立野明子でございます」
「そうか。わかった。そなたへの思いは、一時の気の迷いだったようだ……」

 もう、彼とは話す事は無いだろう。そもそも東宮という雲上の人だしね。これでおとなしくなってくれたらいいんだけど。
 静かに去っていく彼の姿を、珠丸や取り巻きA達と共に眺めていたのだった。