船長は船を出港させる。そして南の沖まで向かうと、海面に向けて声を張り上げた。

「同胞達よ! 今から、仲間が惚れた女を取り戻しに都へと向かいたい!」

 船長の声は、深海にまで響き渡る。声を聞き届けた海坊主やあやかし達が一斉に海面へと浮上した。

「珠丸。アンタからも一言伝えるんだ」
「……皆。俺は人間の女に惚れた。その女は今、都にいるものと思われる」

 おおっ! と沸き起こる雄々しい歓声に、海鳥達はびっくりしていた。

「その姫様にまた会いたい! 迎えに行きたい! 皆、力を貸してくれないか!」

 肯定の意志を示す叫び声が起こった。珠丸は肩で息をしながら、叫び声を身体全てで受け止める。

「良かったな。さあ、今から行くぞ」
「船長……! 皆、ありがとう!」

 かくして海坊主達海のあやかしは都へ向けて進軍を開始した。

(明子……かならず!)

 珠丸の瞳は、これまで彼が生きてきた中でもっとも凛々しさを携えていた。

(珠丸もあんな目が出来るなんてなあ)

 船長は船を進めながら、珠丸を感慨深そうにちらりと見ていたのだった。