◇ ◇ ◇

 明子を見送った珠丸に、船長はそれで良かったのか? と問いかける。

「ああ、そうだな……」
「珠丸。俺には、今のアンタが嘘をついているように見えるんだよな」

 船長の言葉は、珠丸の核心を突いていた。珠丸は唇をぎゅっと噛みしめる。

「アンタ、後悔するぞ。このままじゃ」
「船長……でもアイツはあれで良かったんだ。姫様なんだから……」
「姫様がなんだよ!」

 船長の怒号に珠丸はびくっと肩を震わせた。

「アンタ、左大臣家の一の姫様に惚れてんだろ!?」
「船長……」
「姫様がどうとか関係ねえ! 海坊主なら惚れた女を守ってこそじゃねえのか!」

 珠丸は両手を力強く握りしめた。そして、脳内で明子の姿を思い起こす。
 
(……俺は明子が好きだ。愛している)
「どうすんだ、都に行くのか、忘れちまうのか」
「……都に行く」

 珠丸は決意を込めた瞳で、船長を見た。船長はふっと口角を緩ませながら、首を縦に振る。

「そうこなくちゃな。それでこそ、海坊主だ」