私はそのまま、実亨親王が乗ってきた船に乗り、都へと戻ったのだった。

◇ ◇ ◇

 都にある左大臣家の屋敷に到着するや否や、私・明子の両親である左大臣とその正妻……北の方が迎えてくれた。

「明子! よく戻ってきた!」
「無事で良かったわ……! さあ、疲れを癒しましょう。怪我はしてない?」

 彼らから手厚く迎え入れられるのは嬉しいけど、心は珠丸しかいない。
 彼から拒否されたのに、私はまだ珠丸の事が気になって仕方がない。

「明子。大丈夫?」

 北の方から声をかけられる。とりあえず何にもない。と答えるのがやっとだった。
 それからは身体を濡れた手ぬぐいで拭いて、贅沢な衣に着替えこれまた贅沢な御膳を頂く。

「珠丸……」

 こんなに贅沢しているのに、全然満足出来ない。
 珠丸がいないからだ。彼がいないだけでこんなに……心が空っぽになるなんて。

「……会いたいよ……」

 部屋にひとり……いや、厳密に言うと近くに女房がいるのでひとりではないけど、ぽつんと取り残されている私は、何度も珠丸の名前を唱える。
 でも、誰も答えてくれない。当たり前なのに、それでも寂しさを抱えてしまう。