「せっかく東宮様が迎えに来てくださっているんだ。さっさと船に乗り込めよ。俺の事はいいからさ」
「で、でも……わた、しはっ……!」
「身分違いなんだよ俺達は。だからアンタには東宮様の方がお似合いだよ」

 そんな事笑顔で言われたら……私はなんて言い返したらいいのか……。

「ほら、俺の事はいいから早くあっちへ行ってくれ。達者でな」
「珠丸っ! 珠丸!」
「もう……俺の事は忘れてくれ!」

 彼があそこまで怒った顔を見るのは初めてだった。だから私の身体は石になったかのように動かなくなる。

「……っ」
「何回でも言う。俺達は身分が違いすぎるんだ。俺の事は……まぼろしだと思ってくれ」
「さあ、都へと参ろう。明子」
「っ……!」

 なんでこんな時に涙が出て来るのかなあ。それに胸はすんごく痛い。包丁とかで刺されたとかでもないのに。すごく痛くて苦しくてたまらない。
 実亨親王は私を左肩の上に抱き抱えて、自分が乗って来た船へと向かう。もう、私は身体を動かせない。

「……っ! うううっ……」