珠丸は笑うでもなく、怒るでもなく、淡々と私と実亨親王を見つめるだけ。そんな彼に対して私はほんの少しだけ……期待外れだなと感じてしまっていた。
 だって、もっとこう……怒ったり抵抗したりして感情を露わにするものだと思っていたから。

「……ねえ、珠丸。あのさ……」
「なんだよ。アンタ都へ帰れるんだぜ? よかったじゃん。また前と同じ雅な暮らしに戻れるって事だろ?」

 珠丸のいつも通りな物言いに、実亨親王は勿論約束する。と答えた。

「都に戻れば左大臣家の屋敷で暮らせるようにする。もしそなたがよければ……内裏でも暮らせるようにしよう」

 ん? それって実亨親王と同居するって事? それは嫌だな! 実亨親王と一緒に暮らすよりかは……珠丸と一緒が良い!

「あの、珠丸と一緒には暮らせないのですか?」
「なっ明子! 俺如きが一緒に暮らせる訳が……っ」
「無礼者。海坊主如きが左大臣の一の姫を軽々しく呼ぶでない」

 実亨親王から叱責を受けた珠丸は口を閉ざしてしまった。
 
「あの……珠丸も一緒に連れていく事は出来ませんか? 大事な方なんです」